本文の先頭へ
木下昌明の映画の部屋 第255回=グザヴィエ・ボーヴォワ監督『田園の守り人たち』
Home 検索

●木下昌明の映画の部屋 第255回 グザヴィエ・ボーヴォワ監督『田園の守り人たち』

第一次大戦「銃後」の世界とは?

 戦争映画で第一等の作品を挙げろと言われれば、およそ90年も前のルイス・マイルルストン監督の『西部戦線異状なし』が浮かぶ。時は第一次世界大戦、ドイツ側から描いた舞台はフランスとの国境地帯。殺し殺される塹壕(ざんごう)戦がすさまじかった。その塹壕で一人の農民が「すぐ収穫の季節だ」と、残してきた農場を案ずるシーンがちらりと出てくる。

 あの戦争の終結から100年余、今度はその銃後の生活をフランス側から描いたグザヴィエ・ボーヴォワ監督の『田園の守り人たち』が公開される。

 映画は、男たちが戦場に送られた後の、女たちの労働の日々に焦点を当てている。一家の大黒柱になった女主人のオルタンスと近くに嫁いだ彼女の娘ソランジュ、それに孤児の施設から雇い入れた20歳のフランシーヌ。この3人で農場を切り盛りしていく。牛をひいて畑を耕し、種をまき、収穫には赤ん坊を抱えた女も入れて、村の女たちが総出で麦を刈る日々が点描される。その季節ごとに移り変わっていく田園風景が美しく、ミレーの農民が働く絵を彷彿(ほうふつ)させる。

 そんな農場に長男のコンスタン、次男のジョルジュ、娘の夫クロヴィスが戦場から一時帰還するものの、それもつかの間。コンスタンスはどこかで戦死し、クロヴィスはドイツの捕虜となる。そしてジョルジュは戦場で悪夢にうなされ、殺した敵兵の顔をよく見ると自分の顔だったり、と。

 やがて、参戦した米兵がトラクターを持ち込んで農家の手助けをするようになる。戦争の道具だったものが人手不足から改良されて生産のための機械となり、農業の近代化も始まる。そこが興味深い。

 そしてジョルジュとフランシーヌの森の中での短い逢瀬(おうせ)に心がなごむ。無残な戦争を乗りこえて二人の対面シーンもしみじみといい。

 歴史は女たちによって引き継がれていくことを改めて思い知らされる。(『サンデー毎日』2019年7月14日号)

※7月6日より東京・神田神保町の岩波ホールほか全国順次公開


Created by staff01. Last modified on 2019-07-06 11:12:57 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について