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LNJ Logo 木下昌明の映画の部屋・第248回『ヒューマン・フロー/大地漂流』
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●木下昌明の映画の部屋・第248回 アイ・ウェイウェイ監督『ヒューマン・フロー/大地漂流』

世界は「難民の時代」を迎えている

 アイ・ウェイウェイは、北京五輪で「鳥の巣」と呼ばれたメインスタジアムに関わった中国人建築家。そのうえ現代美術家であり、人権活動家として中国政府とわたり合ったことでもよく知られている。その彼が、ドイツを拠点に世界の難民問題に取り組んだ壮大なドキュメンタリー映画『ヒューマン・フロー/大地漂流』が公開中である。

 難民問題といえば、いまトランプ政権がメキシコとの国境沿いに壁を建築するとして世界の注目を集め、この映画を撮影した2016年当時に6500万人だった難民が、いまや6850万人に膨れ上がっているという。この映画では、23カ国40カ所もの難民キャンプを訪ね歩いている。それも、アイが彼らとともに旅をし、直接事情を聞いたりしている。普通の生活をしていたのに、ある日突然ミサイルが飛んできて、故郷を捨てるしかないありさまを浮かび上がらせる。彼らの多くはリュック一つに着のみ着のままなのに、ケータイだけは持っているから不思議だ。

 これは他人事(ひとごと)ではない。原発事故で難民化したフクシマの人々のことが想起された。いつ何どきわが身に降りかかってもおかしくない時代だ。

 アイらスタッフの撮影方法は変わっていて、ドローンとスマホが多用されている。ドローンによって上空から難民の行列や砂漠のキャンプがとらえられる。その一方でアイがスマホで撮りつつ、人々の中に入って彼らと間近で語りあう。これによって、これまでのように個人に光をあてた人間ドラマではなく、人間を集団としてとらえ、人類全体の矛盾とその悲劇をクローズアップする。

 この映画の根っこには、文化大革命時代、詩人だった父とともにゴビ砂漠で難民生活を強いられたアイの体験がある。――故郷を失った人々はどこへいけばいいのか。いまや世界は、難民の時代を迎えつつある。
(『サンデー毎日』2019年1月27日号)

※東京・渋谷シアター・イメージフォーラムほか順次全国ロードショー


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