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〔週刊 本の発見〕『誰が世界を支配しているのか』
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毎木曜掲載・第92回(2019/1/17)

アメリカへの根底的な批判

●『誰が世界を支配しているのか』(ノーム・チョムスキー、大地舜・榊原美奈子訳、双葉社、2018年2月刊、1600円)/評者:志真秀弘

 いまアメリカはどこへ行こうとしているのか?「世界一の超大国」の先行きは私たちの生活まで揺さぶらずにはおかない。本書は現代史におけるアメリカをとらえながら米国政治の根幹を暴く。著者のノーム・チョムスキーはアメリカの著名な言語学者であり、1960年代のベトナム戦争から一貫して反戦運動に関わり、米国の暴力的な政治とそれに追随するメディアや知識人を徹底して批判してきた。

 本書も体制に媚びへつらう知識人に対する批判から始まる。米国は何をしてきたか、それを著者はまず問う。1964年ブラジルの軍事クーデター、「最初の9・11」と中南米で呼ばれている73年チリのアジェンデ政権に対する軍事クーデター、89年エルサルバドル・イエズス会士六人の暗殺(解放の神学派を壊滅させるため)、さらにハイチで、コロンビアで等々、アメリカは何をしたか、その事実が示される。ニクソン政権はチリでの目的は「病原体」退治だとしていた。米国に都合の悪い政治が「伝染」しないように除去し予防することは正当化される。米国の暗殺、軍事侵略は「国家に奉仕する知識人たち」によってすべて賞賛されてしまう。

 米国の権力者たちはラテンアメリカの、さらに中近東の、アフリカの、アジアの人びとを蟻くらいにしか考えていない。それはアメリカが戦後世界を牛耳って憚らなかったからに他ならない。1945年アメリカのパワーは頂点を極めるが、その後衰退を続けている。にもかかわらず今でも「経済力・軍事力両面で圧倒的ナンバーワン」である。従来のGDP(国内総生産)による国別の比較ならアメリカの富はいま20%ほどだが、米企業の富を集合すると世界の50%に達する。それを背景にアメリカの国家暴力があるのだ。

 チョムスキーは、アメリカとイスラエルとが結託してパレスチナをどのように踏みにじっているかも詳細に明らかにしている。その展開はどこまでも実証的で、歴史の事実に語らせている。そこからアメリカの、そして世界の政治・経済・軍事の構造が浮かび上がる。オバマ時代の問題点もビンラディン襲撃事件、あるいはキューバとの国交回復などが改めて俎上に登り検証される。トランプ政権の「予測不可能な」始まりの意味にも最後に触れている。こうして複雑多岐に見えるアメリカによる世界支配の全貌を本書は説き明かしている。

 くりかえし強調されるのは核戦争と環境悪化による人類の危機、解決のために残された時間はほとんどないという切迫感だ。が、それもかれの皮肉とユーモアに富む語り口によってペシミズムを免れている。「人類は今後も生きながらえてまともな生活を送れる可能性は高くない」。だが、責任は我々にある。転換の「チャンスもまだある」のだ。

 かれは1928年生まれというから今年で91歳、1月4日の『毎日新聞』にかれへのインタビューが掲載され矍鑠(かくしゃく)とした様子の写真も載っている。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。


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