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太田昌国のコラム : 世界に影響を及ぼす、米国のいくつもの貌
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 ●第25回 2018年11月10日(毎月10日)

 世界に影響を及ぼす、米国のいくつもの貌


 *選出された民主党の女性新議員たち(「デモクラシー・ナウ!」より)

 このしばらくの米国の政治・社会の状況からは、目が離せない。 日ごろから、選挙に過大な期待を寄せることはない。昨今の日本の選挙のように、社会を構成している人間の中で、その政治的・社会的・思想的識見から見ても、品性・人格から見ても、最悪の人物をわざわざ選んでいるのではないか――と思えるような事態が続いていて、国会にそれが如実に反映している現実を日々見せつけられていると、選挙に基づく代議制への不信は増すばかりとなる。私たちの心に忍び寄るシニシズム(冷笑主義)は、その直接的な結果だ。にもかかわらず、選挙が持つその限界性の中にも、一筋の光を見出すことも稀にある。

 今回の米国の中間選挙の結果は、その一例といえようか。民主党が勝ったとか、上下院の議員構成が「ねじれ」になったとかに注目しているのではない。2年前の大統領選挙でドナルド・トランプに勝利をもたらした一因は、対立候補=ヒラリー・クリントンのような超エリートたちによって支配されている政治の構造そのものに対する絶望と批判が深かったからだ。その民主党の内部から、女性、移民、先住民族、性的少数者、若者など、社会の中で制度的に「周縁化」されてきた社会層の声を反映させるであろう代議員が幾人も生まれ出た。共和党の頑強な地盤=テキサス州においても、保守強硬派の共和党テッド・クルーズに敗れたものの、ベト・オクールが肉薄した。ベトを「未来のオバマ」と呼ぶ人びとやメディアもあるが、既成の支配的なイメージになぞらえて新しい芽を摘むことはしたくない。私などは「未来のオバマ」と聞いただけで、他所の国で無人機やドローンによる無差別爆撃を自在に展開したり、「9・11テロの主犯」と裁判もなしに断定した人物を殺害する軍事作戦を他国に侵入して実施し、自分はホワイトハウスの一室でその様子を現場中継で観ていたり、プラハや広島で核兵器をめぐる空虚な演説をしてあたかも「平和の使徒」のようにふるまったりする、何の変哲もないありきたりの米国型政治家を連想してしまい、「夢」も「希望」も失せてしまう。新しい「代議員」たちが、見慣れた政治の光景をどこまで変えることができるか、リコール権を持つ草の根の民衆がそれをいかに支援・監視できるかに注目し続けたい。

 この中間選挙が行われた翌日の11月7日夜、ロサンゼルス近郊の町で、現在の米国を象徴する出来事が起こった。150人の人びとを集めて開かれていたカントリー・ミュージックのイベント会場のバーで、28歳の若者が銃を乱射し12人を殺害して、自らも自殺した。容疑者は元海兵隊員で、機関銃手だったという。2008年から13年まで海兵隊に所属し、10年11月から11年6月までアフガニスタンに派兵されていた。心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えていたとも報道されている。18歳から23歳まで海兵隊に所属し、アフガニスタンに派兵されたのは20歳だったことに注目したい。社会のどこにでもいるごくありふれた青年が、かの海兵隊の、性差別と民族差別の言動を伴う集中的な軍事訓練を受けて、躊躇うことなく「敵」を撃つことのできる兵士に変貌したのは、心柔らかき20歳前後のことだった。除隊後市井の生活に戻った彼は、戦時に自らが行ない得た軍事的なふるまいに眩暈を覚え、苦しんだことだろう。海外派兵を終えた自衛隊員の自殺率が異常に高いという報告も思い出したい。米国の新しい「代議員」たちが、他所の土地で当たり前のように戦争をし続けて来た米国の恐るべき近現代史に向き合って、これを断ち切る動きに歩み出る時、米国政治の真の変革が始まるだろうと期待したい。

 ホンジュラスを中心に中央アメリカ諸国から出発し、現状で9,000人に及ぶという「移民キャラバン」は、今日もメキシコ国内を北上し、米国へ向かっていよう。これは、米国などの大国が力に任せて全世界に強要してきた新自由主義経済政策によって生きる手段を失った人びとが、事の因果の「因」に向かって移動していると捉えるべきだろう。とりわけホンジュラスの場合には、中道左派の政権を倒した2009年のクーデタを背後で操り、その後も「親米派」の政権を支え続けている米国の責任こそが問われるべきだろう。これについては、別な機会に詳論したい。(11月10日記)


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