太田昌国のコラム : 外国人労働者の受け入れと排外主義 | |||||||
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外国人労働者の受け入れと排外主義*亡くなったベトナム人実習生(映画「技能実習生はもうコリゴリ」より) 一ヵ月ほど前だったか、新宿の大型書店のチラシで「外国語書籍コーナーにベトナム語書籍大量入荷!」という趣旨の宣伝文句を見かけた。数千冊を常備するという。在日ベトナム人に関わるニュースが目立つなとは思っていたが、調べると、いまや24万人のベトナム人が日本で働いていると知って、不明を恥じつつ言うが、少なからず驚いた。 思えば、「帝都の中の異邦人の群れ」という小さな文章を私が書いたのは1986年のことだった。新宿・歌舞伎町などの繁華街周辺だけではない、私たちが日常的に住まう地域にも、生活感を漂わせた非白人外国人の姿が目立ち始めたのはその数年前からだった。1990年には、当時の政府が日系人に限定した特別枠を設定し、単純労働「力」としての就労目当ての入国を認めた。移住者が多い中南米諸国から日系2世・3世が殺到し、最大時その数は30万人を超えたと言われた。1993年、外国人技能実習制度が導入された――こうして、およそ30年以上も前から、外国人労働者という存在は私たちの目に入っており、行政もその「対応策」を小出しに講じてきたのだった。だが、1999年当時の政府は、専門的・技術的分野の受け入れは「積極的に推進する」も、単純労働者受け入れは「十分に慎重に対応」との方針を頑なに維持していた。その後の歴代政権も同じような路線を採用してきたが、21世紀に入りアジア諸国との間に経済連携協定が締結されると、介護福祉士の候補生の受け入れが、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどから始まっている。
その後、技能実習生が強いられている劣悪な労働環境、「退去強制令」を受けた外国人が収容されている入管施設における虐待・暴行・長期拘留、母国に強制送還される航空機内での入管職員による「制圧行為」による死亡事件、受け入れ態勢の不備――など、この社会が外国人労働者をどのように処遇しているかを示すいくつもの悲痛な事実が明らかになった。現長期政権は、外国人の流入を極度に嫌う民族排外主義的な社会層の中に強固な支持基盤を持つのだが、首相は今年2月に唐突にも、「人手不足に対応するため」外国人労働者受け入れ拡大策を検討するよう関係閣僚に指示した。首相は「在留期間の上限を設定し、家族帯同は基本的に認めない」という条件を付したが、それは、排外主義者たちへのせめてもの「弁解」だったのだろう。首相は、また「移民政策ではない」としきりに強調するが、これも実態を〈言の葉〉で覆い隠そう(ごまかそう)とする努力なのだろう。
それからわずか10ヵ月足らず、改訂入管法案は成立した。2012年の第二次安倍政権成立以降、国会審議は惨めなまでに崩壊しているが、その極限を行くかのように、首相はじめ閣僚はろくな答弁もできないまま、具体策は今後省令での設計に委ねると言い募るばかりだった。野党は、15年から17年にかけて実習生69人もが疾病・自殺などで死亡しているが、この異常な数字を放置したまま、つまり原因の究明と対応措置の採用なくして、新たな入管法制定はできないと迫った。それに対して首相は「今初めて聞いたので答えようがない」とヘラヘラと答弁した。私はこの答弁を見聞きしながら、次のことを思い出した。 2002年9月17日、日朝首脳会談で朝鮮国の金正日総書記は同国特務機関が日本人拉致を行なった事実を認め、謝罪し、二度と再びこのようなことを行なわないと約束したが、同時に日本政府が認定していた拉致被害者13人のうち8人は様々な理由で死亡していることを明らかにした。被害者家族会・メディア・世論はこの異様な数字に激昂し、これ以降今日に至るまで日朝間の対話を日本側が率先して行なった事実はない。この路線を推進した中軸には、対朝鮮国最強硬派の現首相がいる。私は、拉致は朝鮮国の国家犯罪であり、被害者の死亡率の高さも異様だと思う。だから、この困難な事態の打開のためには何が重要かを明らかにするために、日朝関係と拉致問題についての積極的な発言を続けてきた。 その意味で、拉致被害者救済のために〈熱心な〉発言と活動を続けてきたこの社会のメディア・政府・世論は、3年間での外国人技能実習生69人もの死に何を思い、どう発言するだろうということに関心を持つ。無責任の極みと言うべき首相の発言は、上記の通りだ。入管法採決の参議院本会議場で〈懸命な〉抗議を行なった一野党議員が叫んだのは、「この国に生きる人々を低賃金競争に巻き込むのか?」という発言だった。低賃金に〈甘んじる〉外国人労働者の受け入れは日本人労働者の賃金引下げに直結するだろうというこの論理は、入管法改訂の本質を捉え損なっていよう。残念ながら、むしろ、排外主義の煽動に直結するだろう。 外国人労働者を「使い捨て」ようとする政府・与党・官僚・経団連の目論見は、もちろん、論外だ。だが、これに対峙する私たちの側も、けっこう危うい。もはや避けるべくもない「外国人労働者がさらにやって来て、家族ともども定住する」現在と未来に向けて、私たち自身の足元が問われている。 Created by staff01. Last modified on 2018-12-11 13:51:24 Copyright: Default |