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〔週刊 本の発見〕『ごみ収集という仕事−清掃車に乗って考えた地方自治』
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毎木曜掲載・第76回(2018/9/27)

仕事の奥深さと委託化の危うさ

●『ごみ収集という仕事−清掃車に乗って考えた地方自治』(藤井誠一郎、コモンズ、2200円+税)/評者:佐々木有美

 最近、朝日新聞の声欄に、ごみ収集の労働者から、一部の住民に「臭いから早く持っていけ」などと暴言をはかれたという投書が載った。本書は、東京・新宿のごみ収集の現場にとびこんだ行政学研究者の、9か月間にわたる、まさに「身体をはった」体験と考察の記録である。本書を読めば、こんな暴言は吹き飛ぶはずだ。現場労働者を見つめる著者のまなざしは暖かく、彼らへのリスペクトを感じさせた。

 ごみを車に積み込むだけの単純な作業だと思われがちなこの仕事。だが実態は苛酷だ。一度に最低でも、45ℓのごみ袋を両手に二つずつ持ち、連続して車に投げ入れる。収集車の回転盤には手を巻き込まれるおそれがあるし、焼き鳥の串など尖ったものも、けがの原因になる。水気が一杯の袋からはごみ汁が飛び出し、容赦なく作業員にふりかかる。重さと臭いと危険が隣り合わせなのがこの仕事なのだ。夏の炎天下では、さらに苛酷さがます。著者は、35・4度に気温が上った日、頻繁に呼吸困難と立ちくらみにおそわれたという。

 ごみ収集は神経を使う仕事だ。住民や通行車に迷惑がかからないように、なるべく早く作業を終わらせなければならない。作業員はいつも小走りだ。きちんと分別されていないごみは、集積所に残すことが原則。しかし、これも厳しすぎるとごみがあふれ、安易に収集すれば、分別が崩れ、焼却炉を傷めることにもなる。

 こうした現場を改善するのが「清掃指導」だ。住民からクレームがあれば、指導員たちは自分の収集の経験を活かして的確に判断し、ルールを守らない住民にごみの出し方を指導する。保育園や小学校での環境学習、お年寄りや動けない人への訪問収集など仕事は多岐にわたる。それをきめこまかく、ていねいに行っている職員の姿からは、かれらが地域の行政サービスの要になっていることが伝わってくる。

 収集作業の現場で、作業にあたっているのは、区の現業職員だけではない。区から委託された民間の清掃会社の労働者(ほとんどが日雇い)が一緒に働いている。その数は年々増加している。一方、2000年に約8000人いた23区の職員は、昨年2017年には約4000人と半減した。各区は、退職する職員を補充せず、委託の労働者で補っているのだ。

 筆者の問題意識もここに集中している。低賃金で不安定な委託労働者には、職員との間に見えない壁があるという。休憩場所はなく、真夏も真冬もエアコンのない倉庫や駐車場にマットをしいて休む。「委託化によるコスト削減は結局、労働者の人件費の削減。…しわ寄せは立場の弱い労働者に及ぶ」と筆者。委託労働者の労働条件の改善は急務だ。

 委託化で一番問題なのは、業務がブラックボックス化すること。混在ごみがあってもきれいに片づけてしまえば、結果OKになってしまう。仕事も運転や収集の定型業務しかまかされず、住民のクレームなどに対応することは難しい。偽装請負をさけるため、職員との間で仕事の調整が簡単にできないこともある。なにより、委託化によって職員が長年かけて蓄積してきた経験や地域へのかかわりが失われ、行政サービスが劣化すれば、住民にとって取り返しのつかない損失となる。

 ごみ収集の仕事のたいへんさと奥深さ、そして委託化に伴う「危うさ」に気づかされた貴重な一冊だった。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。


Created by staff01. Last modified on 2018-09-27 09:14:10 Copyright: Default

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