〔週刊 本の発見〕佐川光晴著『日の出』 | |
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時代の危機をみつめ文学の可能性を追求する●『日の出』(佐川光晴、集英社、1600円)/評者:志真 秀弘
今回紹介する小説『日の出』にも考えた末の工夫がある。装丁は簡潔でスマート。「生きるのはたいへん。でも生きるのはうれしい。」という帯のコピーもいい。小説は冒頭「徴兵逃れ」という言葉から始まる。といってその主題が重苦しく語られるわけではなくて、歯切れの良い文体であたかも冒険小説のように話は展開していく。明治の終わり近く石川県から話は始まるが、作中の会話は方言ではなく標準語になっている。冒険小説的展開も方言にしていないことも、作者が今の読者に届くように考えた表現に違いない。*写真下=著者の佐川光晴氏
この小説には仕掛けがあって、もう一つの話が章を変えて交互に進行していく。その主人公は公立中学の教員をめざす大学生あさひ。彼女は清作の曽孫である。こちらの時代は文字どおりいま。なかに主人公がこう考える場面がある。「神奈川県内の公立中学校に通う韓国籍の生徒が教科書の竹島問題に関する記述を黒くぬりつぶしたことがネット上に投稿されたりしたら・・・・。最悪の場合、文君の一家が日本にいられなくなるかもしれない」。文君は教員になったあさひの生徒。ここにはおそろしいばかりのリアリティがある。あさひが浪曲好きになって浅草木馬館に行くといった愉快なエピソードも織り込みながらこちらの物語も進んでいく。二つの時代、二つの物語は交差し共鳴する。 この小説を「社会的メッセージ性の強い現代小説」とコラム「大波小波」は評している(『東京新聞』6月21日)。同感だ。波乱万丈の物語のなかにしいたげられた人々の近代史が浮き彫りにされる。時代の危機を見つめながら、それに流されずに文学の可能性を追求する作家がここにいる。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2018-09-20 11:13:09 Copyright: Default |