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毎木曜掲載・第74回(2018/9/13)

マンスプレイニングってなに?

●『説教したがる男たち』レベッカ・ソルニット ハーン小路恭子訳 左右社/評者=渡辺照子

 私の周辺のフェミニストの間ではこのところ「マンスプレイニング男」のことが「大流行り」だ。マンスプレイニングとは、「男性が偉そうに女性を見下しながら何かを解説・助言すること。man(男)とexplain(説明する)という言葉をかけ合わせた言葉」だ。(HUFFPOST:Jenavieve Hatchさんの説明による)それは私を含む女性の友人・知人が実に多くこのマンスプレイニングを「浴びて」いるからだ。私は当事者として派遣労働問題を発信しているが、その反応の中のあるパターンとして、例外なく「男性」から、「労働法のなんたるか」のレクチャーを受ける。その内容はおしなべて初歩的で一般的であり、残念ながら私の見識を深めるものにはならない。マンスプレイニングとは実際、そのようなものだ。

 本書にはもっと痛快なエピソードがある。著者があるパーティーに呼ばれて、そこで男性が得意げに著者に講釈を垂れている本が、まさにその著者レベッカ自身の本だった、という、最高と言うべきか最低と言うべきか、究極の事例だ。

 だが、女性が感じるそんな日常の違和感の出来事は、些末で受忍すべきものではないことが読む進めるとわかる。「なんでもない会話のその先には男性にのみ開かれた空間が広がっている。言葉を発し、話を聞いてもらい、権利を持ち、社会に参加し(中略)自由な人間として生きられるような空間。そこには女性は入れない。」マンスプレイニングの告発を大げさだと揶揄する意見には著者のこのフレーズが効きそうだ。

 マンスプレイニングは女性に発言の機会を奪い、沈黙を強いる。極端な例として、しかし、実際にあることとして、中東では女性は男性の目撃者がいなければ、自分のレイプ被害を証言できないという。そこで著者は「信じてもらうことは基本的なサバイバルツールだ」と述べる。本書は各国の女性に対するレイプや殺人等の犯罪をいくつも取り上げている。「暴力の当事者になるのに、人種も階級も宗教も国籍も関係ない。でも、ジェンダーだけは別だ。」との記述が各国の性犯罪を串刺しにする。

 となると必ず男性からの反論が来る。「男性みんながそうではない」と。それに対しては「傍観者の男性が居心地悪く感じなくてもいいように、実際にそこにある遺体や被害者、犯人から話題を逸らすそのやり方が問題だ」との著者の言葉を捧げよう。それでも「理解しない男性」がいることも私は知っている。ある怒りに満ちた女性の言葉もある。「女を殴ったりレイプしないからご褒美にクッキーでもくれっていうこと?」。さらには「男がみんなレイピスト的でわけではない。でも、女はみんな存在するレイピストの男たちを恐れている」という米国から世界に広がったツイッターのフレーズを紹介したい。

 過日、私が出会ったあるセクシュアルハラスメントの研究者の女性は「被害者はどこまで表現のスキルを磨かねばならないのだろう」と怒りを露わにしていた。あらかじめ下駄をはかされており、且つそれに無自覚な男性は、芸のないマンスプレイニングや「男性いろいろ論」で女性の告発や怒りを無化できると思い込んでいる。そのお決まりの言動に、女性は研ぎ澄まされた言葉で対抗してきた。「セクシュアルハラスメント」しかり、「ドメスティックバイオレンス」しかり。そういう言葉がなければ、犯罪や暴力はなかったことにされてきたことの証明でもある。著者の「多くの女性が日々出会う世界を再定義し、それを変えようとする道を開くための言語的ツール」との一節が私に告発の重要性への確信を与える。

 米国では報告されているだけでも6.2分間に一件レイプが起き、5人に一人がレイプの経験を持つ等のデータや、舌禍激しい自民党議員のような米国の共和党議員のミソジニー(女性嫌悪)発言も数々取り上げられている。暗澹たる気持ちに追いやられると思いきや、それに対抗する女性たちの言葉と態度に励まされる。そして理解ある男性の存在があることも明記されている。

 私も同じだ。男女を問わないレイバーネットの皆さんに、雇い止めの際には、どれだけ支えになってもらったか。著者は本書を、平等主義者や歩み続ける女性たちと共に理解ある男性に捧げている。私もその感謝の気持ちは変わらない。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。


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