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木下昌明の映画の部屋『カメラを止めるな!』
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●木下昌明の映画の部屋・第245回

閉塞しつつある時代の「笑い」〜大ヒット映画『カメラを止めるな!』を観て


 *池袋「シネマ・ロサ」

 友人から「『カメラを止めるな!』という映画がいま人気だ。いつも満員でなかなか入れない。やっと観たが面白かった」と教わった。映画評論家を自称するわたしとしては、これは観ておかねば、とさっそく出かけた。

 東京は池袋のシネマ・ロサなど2、3館しかやっていないが、全国ではなんと150館にも増えたという。なんとか夜の回に入れたが、客席はぎっしり満員。隣りから一列、20代の若者たちがポップコーンを食べている。なんとリピーターもいてあれこれ解説している。そんなに面白いのか!? 

 映画ははじまるとゾンビ映画で観客を恐怖に陥れる。つい、まんじりともしないで観てしまう。それが「一カ月前」に画面転換すると、実はテレビ会社の企画した番組とわかる。そして、今度はその舞台裏をみせていく。ドラマは二重構造になっているのだ。監督とその妻と娘を主要人物に設定し、テレビ会社の提案する「すべてをワンカットで撮る」を監督は受け入れて、どんなハプニングが起きてもこの手法を貫く。そこで失敗もドラマの一部に取り入れざるをえなくなる。このアイデアがいい。


 *この日も満席だった

 ラストに近づくにつれ観客の爆笑がたえない。わたしも何度も吹きだしたが、少年時、街頭テレビで見たエノケンのアチャラカ芝居の『雲の上の団五郎一座』を思い起こした。これが抱腹絶倒ものだった。それは一座が悲劇を演じているのに役者が足りず、一人で何役もこなさなければならない。そのために芝居は破綻してドタバタになっていく。『カメラを止めるな!』もこういったドタバタ劇を継承したものである。

 コワイはずのホラー映画も舞台裏をみせることで、バカバカしいものとなり、観客は「恐怖」の感覚をのりこえていく。なかでも、代役を買ってでた監督の妻の台本を超えたアドリブの異様さが見ものだ。

 ーーこういったドラマがいまの若い世代の望んでいる笑いなんだ、とわかる。それは『家族はつらいよ』のドロくさい人情喜劇なんかと違って、失敗の連続を逆手にとって、意表をついた乾いた喜劇をつくり出す。その笑いの背景には閉塞しつつある時代へのうっくつ感が流れている。わたしはこれを、いまの世相を笑い飛ばす方向へ持っていけないものかと思った。「お固い理論」だけじゃうんざりなんだ。

 ともあれ、上田慎一郎監督・脚本・編集の『カメラを止めるな!』には、映画づくりの裏まで覗きみえて映画好きにはたまらない。松金よね子に似た女性プロデューサーの一言ーー「本番はトラブルもなくホンマに良かったです」のシメも効いていた。これはB級映画のケッサクか。


*上映後、アピールする出演者


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