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権力が恐れた「抗弁する態度」〜歴史に学ぶ「横浜事件と言論の不自由展」
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権力が恐れた「抗弁する態度」〜歴史に学ぶ「横浜事件と言論の不自由展」

   松原 明

 7月21日、東京・江古田のギャラリー古藤で始まった「横浜事件と言論の不自由展」の初日は、歴史学者・荻野富士夫氏(写真)のトークイベント「治安維持法と横浜事件」だった。荻野氏は治安維持法研究の第一人者で特高警察問題に詳しい。90分にわたる話に私は釘付けになった。当時の特高警察が何を考え人々を弾圧したのか? その特高が取り調べで被疑者に語ったこんな言葉が紹介された。「この国家非常の時局に銃後を固める当局としては、将来万一の点から見ると、お前たちの抗弁する態度自体が大いに危険なのだ、行為にたいしてだけ罪を問われると思うのは間違いである」と。特高が問題にしたのは実行行為ではなく「抗弁する態度」だという。いまの言葉に言い換えれば、「国の政策に文句をいい戦争反対の声を上げること」が犯罪とされ拷問までされたのだ。1925年に制定された治安維持法は当初は共産主義運動弾圧を目的としていたが、共産党が壊滅したあとは戦争に反対するリベラルな人々を根こそぎ弾圧するものだった。1945年の敗戦でそんな時代は終わるはずだった。しかし「GHQの指令で特高警察は半数が罷免追放されたが、半分は残り思想検事は罷免されなかった。その後、急速に逆コースをたどることになる」「そしていまは安倍政権のもと、共謀罪が制定され治安警察の一層の拡充が進むのではないか」と荻野氏は危惧する。

 私がもうひとつ印象に残った話は、日本の侵略戦争を推進した背景に国民の圧倒的戦争支持世論があったことだった。荻野氏はそれを数字で示した。「国民の戦争賛成の意識は当初は20%くらいだったが、1931年の満州事変で一気に80%くらいになり、1937年の盧溝橋事件を経て、1941年の対米開戦でピークを迎える。その時の戦争支持率は99%に達した。その後、1944年のサイパン陥落・空襲激化などで戦意は25%にまで下がっていくが、特高の国内弾圧はそうした国民の圧倒的戦意高揚のなかで容認され展開されていた。99%という数字は、敗戦直後アメリカ戦略爆撃調査団行ったもので3000人の聞き取り調査で確度は高い」。ではなぜそんなに戦意が高まったのか。荻野氏は「戦意高揚に一番の役割を果たしたのは新聞などのメディアで、とくに地方新聞は地元師団の従軍情報を伝えることで読者をどんどん拡大していった」という。こうした圧倒的戦争遂行状況のなかで、わずかに存在した「改造」「中央公論」などの良心的ジャーナリストを弾圧したのが「横浜事件」だった。

 約30人が集まったトークイベントのあとの「オープニングパーティ」でもいろんな話が出た。ある女性弁護士は「きょうの午後に開かれた『なぜ元号はいらないのか? 7.21集会』に参加したが、公安警察が何十人も監視していて驚いた。マスコミは横浜事件など過去の事件は取り上げるが、いま起きていることを報道してほしい」と語る。またある市民は「私は新宿区がデモに公園を使わせないことに反対する運動に取り組んでいる。これはとても危険なことだ」と。

 荻野氏は70年以上も前の治安維持法のことを語った、しかしそれは昔話ではなく、間違いなくいまのことなのだ。国家、警察、国民、戦争とは何なのか、歴史が教えてくることは大きい。今回の展示では、横浜事件だけでなく、その後の鹿地亘事件、風流夢譚事件、朝日新聞赤報隊事件、ETV2001番組改変事件、ニコン事件、九条俳句事件なども取り上げている。またビデオプレスの作品『横浜事件を生きて』も上映される。ファッショ化がすすむ今の安倍政権のもと、私たちが歴史に学ぶことは大きいと思う。ぜひ多くの人に足を運んでほしい。(「言論の不自由展」実行委員・『横浜事件を生きて』制作者)

7.22「赤報隊」トークイベント報告

●「横浜事件と言論の不自由展」

7月21日(土)〜29日(日)
参加費:一般1000円 ハンディのある方800円 大学生以下無料
会場:ギャラリー古藤 予約優先入場 定員40名
予約:電話又はメールでの予約をお願いします。
   メール fwge7555@mb.infoweb.ne.jp
   電話 03(3948)5328
トーク・ビデオ上映イベントのスケジュール
〇7月21日(土)16:00〜18:00(終了)
 トーク「治安維持法と横浜事件」
 荻野富士夫(小樽商科大学名誉教授 近・現代史)
 トーク後、会場にてオープニングパーティー(参加費別途1000円)
〇7月22日(日)16:00〜18:00
 トーク「朝日新聞赤報隊事件」
 樋田毅(元朝日新聞記者、『記者襲撃』著者)
〇7月23日(月)19:00〜21:00
 トーク「鹿地亘(かじ・わたる)事件」
 児島芳樹(NHKディレクター)
 参考上映「鹿地亘関連映像」
〇7月24日(火)19:00〜21:00
 トーク:木村まき(横浜事件国家賠償訴訟原告)
 ビデオ上映「人権ひとすじ─木村亨さんを偲ぶ」(1998年/20分/木村まき)「国は嘘をつく─木村まき 横浜事件を生きる」(2017年/23分/武蔵大学永田ゼミ)
〇7月25日(水)19:00〜21:00
 ビデオ上映「横浜事件を生きて」(1990年/58分/ビデオプレス)
「横浜事件─半世紀の問い」(1999年/35分/ビデオプレス)  解説:松原明(制作者)
〇7月26日(木)19:00〜21:00(開場18:00)
 講演「モノが言えない時代を引き裂く」
 望月衣塑子(東京新聞記者)
 ※26日のみ講演会場は武蔵大学大講堂となります。(予約不要)
〇7月27日(金)19:00〜21:00
 トーク「横浜事件国賠訴訟」
 森川文人(横浜事件国賠訴訟弁護団団長)
〇7月28日(土)16:00〜18:00
 ビデオ上映「横浜事件を生きて」
「人権ひとすじ─木村亨さんを偲ぶ」
解説:木村まき、松原明
〇7月29日(日)16:00〜18:00
 トーク「ETV2001番組改変事件」 永田浩三(武蔵大学教授・元NHKプロデューサー)
→詳細ブログ http://furutotenshu.cocolog-nifty.com/blog/2018/06/post-a9cd.html


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