木下昌明の映画の部屋 : 三上智恵・大矢英代監督『沖縄スパイ戦史』 | |||||||
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<木下昌明の映画の部屋 243回> 三上智恵・大矢英代監督『沖縄スパイ戦史』 住民500人を死に追いやった犯罪市川雷蔵主演の『陸軍中野学校』(1966年)をみて、日本の戦時にスパイ学校があったと知った。印象に残ったのは、主人公が国家に忠実を尽くすために恋人さえも殺す冷血漢となるシーンだった。 三上智恵(ちえ)と大矢英代(はなよ)の両監督の『沖縄スパイ戦史』は、中野学校を出たスパイが戦地で何をしたか――その実態の一面を見事に切りとっている。三上は『標的の村』(2012年)など基地反対の住民に焦点を当てたドキュメンタリーでよく知られている。大矢は若きドキュメンタリストで『テロリストは僕だった〜沖縄・基地建設反対に立ち上がった元米兵たち〜』(2016年)がある。この2人が共同で沖縄戦の埋もれた戦史を掘り起こしている。 戦時下、42人の中野学校出身者が沖縄全島に派遣された。このうち「護郷隊」という秘密部隊を作り、少年兵らにゲリラ訓練をさせていた2人のスパイに、三上は光を当てる。米軍が撮った少年兵らの写真の数々と生き残った元少年兵の証言を重ねて、戦場の無残さを伝えている。スパイに仕立てられた少年兵を仲間に銃殺させたり、仲間に見捨てられた元少年兵の話などに唖然(あぜん)となる。 一方の大矢は、波照間島の住民約500人を死に追いやった犯罪を追及している。 1944年暮れごろ、一人の教師が島にやってくる。彼は住民に優しく慕われた。だが米軍が攻めてくると噂(うわさ)が立つや彼は隠していた軍刀で人々を脅し、隣の西表島に強制疎開させた。2000頭の家畜は処分し、軍隊が食用に持ち去った。着のみ着のままの住民は、マラリアと飢えで亡くなった。米軍は現れず、彼も姿を消した。スパイだったのだ。彼は戦後どうしたか。 今日、沖縄南西諸島に自衛隊が配備され、ミサイル基地が建設されつつある。三上と大矢は、自衛隊が当時の法規を踏襲し、昔と同じく住民を顧みない軍隊の本質を暴いている。必見。 ※7月21日より沖縄・桜坂劇場、28日より東京・ポレポレ東中野ほか全国順次公開 〔追記〕この映画をみると、日本兵は中国ばかりでなく、沖縄からも食料を「現地調達」していたことがわかる。 Created by staff01. Last modified on 2018-07-21 13:09:15 Copyright: Default |