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〔週刊 本の発見〕『新・日本の階級社会』
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毎木曜掲載・第44回(2018/2/15)

非正規労働者は新しい階級か?

●『新・日本の階級社会』(橋本健二 講談社現代新書)/ 評者=志真秀弘

 本書は、非正規労働者を「アンダークラス」と呼んで労働者階級の下層に位置する新しい階級の出現と捉えている。社会学の手法によってデータが分析され実証される。非正規労働者の数は929万人。パートタイマーの主婦、外国人労働者、アルバイト学生などはこの数字から除かれているから、実数は間違いなく1000万人を越える。正規労働者は2192万人なので、この統計によっても非正規は労働者総数の三分の一である。数字は、主に2015年の「社会階層と社会移動全国調査」が使われている。最新のものと言って良い。

 著者の名付けた「アンダークラス」の生活をみていく。平均個人年収は186万円。正規労働者のそれが370万円であるのと比べ半分である。月収15〜6万円では家賃、携帯通信料、水光熱費、食費などでほぼ尽きてしまう。健康保険料、年金なども全額自己負担である。病気しようものなら医療費にも事欠く状態になる。男性の場合、未婚者は66%とあるが、当然そうならざるを得ない。さらに男女合わせ6割の人が親と同居している。家賃が払えないからだ。ネットカフェを転々とする状態に追い込まれても不思議ではない。組合加入率は13.8%である。組合費を払うのも辛いに違いない。非正規労働者の半数近くが女性。非正規の問題は女性問題でもある。

 加えて「階級の固定化」が急速に進んでいる。かつて社会学者の唱えた「総中流化論」は、この10数年の間に現実が拒否した。著者もそう指摘している。かわって非正規労働者に象徴される格差・貧困が広がった。

 ところが「貧困が見えない」と言われる。本書の示す階級間移動の減少、つまり階級が固定化していることが原因だ。資本家の子供は資本家、労働者の子供は労働者の傾向がはっきりしつつある。そのうえ階層化が進み、教育の場で、住む場所で、分けられ隔てられる。いわば貧困は閉ざされ、社会の隅に追いやられ、行政の特定部署の対処領域になっている。それが「貧困が見えない」理由だ。(写真=著者)

 では非正規労働者の問題はどうか?

 非正規の問題が従来の労働組合運動のなかで、重要課題としてなぜ意識されないのか。公務員の職場でさえ非正規労働者はかつてないほどの数になっている。組合運動の足元=職場自体が揺らいでいるのは、すでに誰の目にも明らかだ。それでも組合はなぜ対応できないのか?

 それを考える上で、本書第6章「格差をめぐる対立の構図」がヒントになる。「格差容認論」あるいは「自己責任論」への反発は、当たり前のことだが非正規労働者が最も強い。

 一方で「自己責任論」は正規労働者のほぼ半数をとらえている。その実態がこの章で明かされる。非正規労働者の状態を自己責任だとする意識からは、それを変えようとする考えが生まれるはずはない。従来の労働組合運動も、実はこの自己責任論にとらわれているのではないか。

 最近の「働き方改革」と称する攻撃一つとっても、労働組合の反撃は正規、非正規が一体となる必要がある。専門職、管理職を「新中間階級」(1285万人)と本書は位置付けるが、彼らも含めて闘うべきことは論をまたない。資本は分断して統治しようとするが、同時に劣悪な賃金・労働条件へと労働者階級は一体的に切り下げられていく。そこに現代資本主義の労働者攻撃の特徴もある。階層化攻撃だけでは足りず、一体として悪化させる。つまりわれわれは「99パーセント」になる。その認識が、いま求められている。

 この見方からすると、本書のデータ分析に基づく問題提起は貴重だが、正規労働者を「労働者階級、非正規労働者を新しい階級=アンダークラス」と位置付けることには、やはり賛成できない。この認識では分断された現状を追認することになりはしないか。わたしは非正規労働者の現状は、労働者階級が分断され、階層化が進行した結果だと捉える。

 本書は、しかし、みたように多くの示唆に富み、議論すべき提起がなされた意欲的なレポートである。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。


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