労働者の文化はつくるもの/12.16レイバーフェスタを前にして | |
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労働者の文化はつくるもの〜12.16レイバーフェスタを前にして木下昌明
わたしはこれまで映画批評の本を7冊出している。それは映画のジャンルにこだわったからでなく、たまたま戦後の映画黄金時代に映画を社会の窓として育ったからである。映画を語ることで社会を語る習慣が身についていた。 しかし、その映画も、年々観客が少なくなって誰でもが見るとは限らなくなった。当初はテレビの普及が影響し、それがやがてインターネットの時代となった。それは見たり聴いたりだけではなく、自分から発信する、それも国境を超えて世界に広がるまでになった。そんななかで映画自体の様変わりも早く、ハリウッドのように大手の映画会社が撮影所で大々的に製作するものばかりでなく、小型のビデオカメラでもすぐれた映画が作られるようになった。ドラマ以外にもあちこちで起きる自然災害や事件まで誰もが手軽に撮れるようになった。そういう科学技術の変化にあって映画批評のあり方も問われざるをえなくなり、大家然と語る場さえもなくなった。批評家自身が率先して映画の新しいあり方を追求する必要にせまられた−−といえないか。 幸いわたしは「レイバーネット日本」の立ち上げに出会った。2001年、時代の転換期のことである。当時、わたしはパソコンなど持っていなかったので、右も左も分からずにネットのできる会員のしっぽにぶら下がっていた。それでいてこの集団のささやかな試みが魅力的だった。なぜだろう。それは一言でいえば、世界の労働運動とネット運動を結びつけたインターナショナルな活動をみんなで手さぐりで学習しはじめたからだ。 最初の大きな催しは東京・なかのゼロ小ホールで500人集めた「レイバーフェスタ2002」の開催だった。いま、この時のチラシ(写真)をみると、満面に笑みを浮かべて両手を高くあげている女性の写真が映っている。写真の上に「『あなたにパンとバラを』ー『労働』を観よう・聴こう・話そう」といううたい文句――パンは生活を、バラは尊厳を意味した。そこにケン・ローチ監督『ブレッド&ローズ』の上映とある。写真の女性はこの映画のヒロインで、密入国した移民のパート清掃員である。彼女はロサンゼルスで労働組合をつくって闘っている、そのワンシーンなのだ。この映画を第1回のフェスタの柱にした。そこまではよかったが、プラン会議の時、この映画にかかわった実在の清掃労働者をロスからよびよせようという話になって、わたしはびっくりした。有名人ならいざ知らず、無名の労働者にカネをかけてよびよせるなんて!と。しかし、これを実行したのだからすごい。いまでもロスからやってきたその労働者の顔を覚えている。 レイバーネット運動の根っこには、こういう発想と実践が流れている。この後も米国の労働運動の活動家、沖縄の基地闘争の活動家や韓国サンケンの労働者、インド・バングラディッシュのカレー労働者らとの結びつきなど、どんどん広がっていく。そこに世界の労働者同士と手をつなごうという活動家精神をみることができる。これこそ労働者文化といえないか。労働者の文化は"あるもの"ではなく"つくるもの"である。 フェスタの重要な柱に、もう一つ「アナタの仕事・ワタシの権利」をうたった3分ビデオ大会がある。これは個人の当面している問題を3分間の映像を介して訴えるもので、わたしの場合、わたしの娘が長時間労働で過労死しないか、と心配して撮りはじめた『娘の時間』というビデオが出発点だった。この作品で賞をとった。以来、わたしは毎年のように出品し、参加者も多くなった。 こうしたことが積み重なって、今度はそれぞれ長いドキュメンタリー映画をつくるようになった。『人らしく生きようー国労冬物語』の松原明・佐々木有美のビデオプレスの諸作品をはじめ、土屋トカチの『フツーの仕事がしたい』、堀切さとみの『原発の町を追われて』、湯本雅典の『選挙が生まれる』など。また、わたしががんを患った際に撮った医師との面談や患部のMRI、CT画像などを中心に『がんを育てた男』をビデオプレスでまとめた作品もある。これらがフェスタを発信地として各地で上映されるようになった。ささやかであろうと、「文化のないたたかいなんてありえない」を合言葉に、わたしたちの運動は広がっていった。映画は単に見るだけでなく自分たちでつくり、自分たちの生き方を考える時代となった。なお、フェスタはその他に川柳や音楽運動への試みもある。(週刊『新社会』12月12日号より転載) →12月16日(土)レイバーフェスタ2017・田町交通ビル6Fホール Created by staff01. Last modified on 2017-12-13 17:27:53 Copyright: Default |