〔週刊 本の発見〕『新聞記者』/当たり前のことをしているだけ | |||||||
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毎木曜掲載・第30回(2017/11/9) 当たり前のことをしているだけ●『新聞記者』(望月衣塑子 角川新書)/評者=渡辺照子菅官房長長官の定例会見での常套句「そのような指摘はあたりません」「全く問題ありません」という木で鼻をくくったような態度、国民の疑問に真摯に答える気持ちなどさらさらない空疎な内容の言葉遣い、その言葉に「満足」している記者たち、それらに私はイラついていた。米国の会見での名物記者の執拗な質問に比較するとその異様さは目に余る。ところがある日、欺瞞に満ちた予定調和を打ち破る声が朗々と響いた。菅官房長官のおざなりな回答に満足しない質問は、私たちの安倍政権への疑問や怒りを代弁してくれるようだった。声はすれども姿は見えぬ。だが、臆せず食い下がるその声に多くの者が魅せられた。記者の名は「望月衣塑子」。日本企業の武器輸出について2冊の書籍を刊行した人と同一人物だと知り、「なるほどさもありなん」と思った。今度はその彼女の素顔が知りたい。この本では彼女の新聞記者、報道、ジャーナリズムに対するストレートな熱い思いが語られている。 行動的で演劇好きな母親に影響されて子どもの頃から演劇のレッスンをしていたこと、その母親に勧められて吉田ルイ子の本を読み、アパルトヘイトの過酷な現実を伝えることの大切さに感激したこと、父親の記者時代の経験談から現場の人たちの話を聞くことの楽しさを感じたこと。望月記者のルーツが示される。 新人記者時代はサツ回り。まさに夜討ち朝駆けの日々。警察幹部が早朝マラソンを日課とすると知るとシューズを自分も買い、伴走するというド根性ぶり。終いには幹部の夫人から朝食を用意されるまでになった。所属の先輩記者だけでなく、他社の記者の人間像も魅力的に描かれる。鑑識のベテラン捜査官の言葉が彼女の記者魂の原点だ。「頭がいいとかどこの社とかじゃない。自分が新聞記者に情報を話すかどうかは、その記者がどれだけの情熱を持って本気で考えているかどうかだ。」 彼女は出会う人たちから多くを学び、育ってきたのだ。2004年には日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑をスクープ。その後、森友学園問題、前川前事務次官による加計学園問題、詩織さんによるレイプ被害告発と、今年、多くの耳目を集めた話題には必ず係わっている。官邸勢力、警察、検察、他社の記者、記者クラブと、取り巻くアクターに不足はない。 それでも彼女も生身の人間。育児との両立、病気、母の死と、プライベートでの困難、コンフリクトに悩み格闘してきた。官房長長官への質問におけるプレッシャーを、精神的には乗り越えても体が悲鳴をあげ、入院を余儀なくされたとの一節には読むこちらも胸が締め付けられるようだった。 圧巻は菅官房長長官との質疑応答の描写だろう。言葉の応酬、間、相手のちょっとした語調や表情の変化、当事者でなければ描けない緊迫した瞬間が臨場感を持って描かれる。彼女は繰り返し言う。「私は新聞記者として当たり前のことをしているだけだ」と。しかし、その「当たり前」が脅かされている。安倍首相の豪奢な酒席にはべらせてもらい「権力の内情を知る」と得意げに語る新聞社やテレビ局のトップ。安倍政権に忖度するあまり、国民に伝えるべき問題よりもスキャンダルや小ネタでお茶を濁す新聞、テレビ。「マスゴミだ」と皮肉りたい気持ちもわかる。しかし彼女のようにがんばっている記者もいるではないか。権力からにらまれる。SNS等によるバッシングもハンパではない。談合のような記者クラブからの圧力もある。権力の監視というジャーナリストの原則を貫く彼女への扱いで言論の自由の程度がわかるというものだ。 日本の報道の自由度は安倍政権になってから益々順位を落とし、180カ国の中で72位という低さだ。(最下位は北朝鮮。お隣の韓国は63位。上位は北欧が占める。)それに抗うように「私は政権や官邸へとつながる、唯一のドアをノックできる。このことを幸せに感じ、やらねばならないという思いは強まっている」との力強い意思表明も最後には書かれている。彼女は盟友たるべき同業者も多く登場させ、自分の取り組みは自分だけではできないこと、多くの者も闘っていることを私たちに示しているようだ。彼女のようなジャーナリストをひとりでも多く活躍させることができるように押し上げるのは私たちだと感じた。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2017-11-09 12:49:49 Copyright: Default |