〔週刊 本の発見〕『労働者階級の反乱−地べたから見た英国EU離脱』 | |||||||
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毎木曜掲載・第27回(2017/10/19) 面白く、いま役に立つ本●『労働者階級の反乱−地べたから見た英国EU離脱』(ブレイディみかこ 光文社新書 820円)/評者=志真秀弘)EU離脱に投票したイギリスの労働者は、排外主義者なのか、トランプ大統領を選んだアメリカと同じように移民排斥を主張しているのか? 著者(保育士・ライター・コラムニスト)は、その疑問を解き明かそうとする。「ダーリンは離脱派」では済まされない、と。 まず離脱後の世論調査の分析、そして著者自身による労働者へのインタビュー。この夫(著者の)の友人たち6人へのインタビューが痛快(一人を除いてみんな離脱に投票した)。イギリスの労働者階級が生きて目の前に浮かび上がる。労働者たちが排外主義に染まって、EU離脱に投票したと捉えるのは一面的で早計なことがわかる。「労働者たちにとって離脱は、文化的な動機(移民への不満)より、経済的な動機(生活への不安)のほうが大きかった」。 2008年リーマンショック後の2010年、キャメロン保守党政権は戦後最大規模と言われた緊縮財政政策を始める。3年後には、例えばフードバンクの利用者が前年比で300パーセントにもなる。不況と緊縮財政のダブルパンチで労働者の暮らしは引き裂かれる。マスコミは社会保障に依存する人々を攻撃し、保障が切り下げられていく。白人労働者たちを「チャヴ」呼ばわりする風潮は、すでに以前から浸透していた。この差別用語はロマ族の言葉で「子供」を指す「チャビー」からきている(オーウェン・ジョーンズ『チャヴ 弱者を敵視する社会』)。白人労働者階級は蔑まれて当然という社会風潮ができていた。人種的偏見からくる言葉ではないという捻じ曲がった理由で、この差別語は正当化された。 社会から取り残された白人労働者の疎外感は深い(ケン・ローチ監督『わたしはダニエル・ブレイク』をみよ)。 ブレクジット(英国のEU離脱)に投票した白人労働者の意識にはたしかに二面性がある。移民によって生活が苦しくなったという意識と、緊縮政策によって困窮を強いられていることが重なっているからだ。トランプに投票したのは中流から滑り落ちるのを恐れたラストベルトの人々であり、それだけ排斥意識も強かった。イギリスの場合、著者の言うとおり、白人労働者階級は、移民排斥より投票で自分たちの生活自体を変えたいという意識が強かった。 今年6月の総選挙で、労働党は予想外の躍進を遂げ保守党政権を追い詰めた。そこには緊縮政策に対する白人労働者階級の反発があった。コービン(労働党党首)を支持する左派の若者たちが激戦区と呼ばれた中北部で、集中的な戸別訪問を展開した。この左派の活動にイギリスの労働者階級は応えた。 著者は言う。「いま英国に住むわたしたちは、もう一度、労働者階級の意味を再定義するときに来ているのだと思う。……それを定義し人種も性別も性的指向も関係なく、自分たちに足りないものや不当に奪われているものを勝ち取らねばならない時代が来ているのだ」。 最後の章で著者は、イギリス現代史100年の歩みを端的にスケッチし、あの「労働者階級の誇り」がどこからくるかを浮き彫りにする。著者は書く。「よく理解できない事柄に人類が出会った時に人類がせねばならないことを、いまこそわたしもしなければならない、と思った。勉強である」。この果敢でストレートな物言いこそ著者の真骨頂。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2017-10-19 12:12:53 Copyright: Default |