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〔週刊 本の発見〕『キジムナーkids』
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毎木曜掲載・第24回(2017/9/28)

とびっきり明るくて悲しい少年たちの物語

●『キジムナーkids』(上原正三 現代書館 1700円)/評者=佐々木有美

 つい最近、沖縄のチビチリガマが少年たちによって荒らされるというショッキングな事件が起きた。もし彼らがこの本を読んでいたらと思う。本書は敗戦直後の沖縄を舞台にした、とびっきり明るくて、とびっきり悲しい少年たちの物語である。日本で唯一地上戦の戦われた沖縄で人々はどう生き、どう死んだのか。子どもたちにも読める戦争物語がもう一つ誕生した。作者はウルトラマンシリーズなどで知られるシナリオ作家上原正三。上原は、1937年に沖縄に生まれた。敗戦までの2年間熊本に疎開、小学4年生で焦土となった沖縄に帰った。この作品は上原の体験に基いている。

 敗戦直後の沖縄、明るい太陽の下で、お腹を空かせた5人の子どもたちが、米兵から食料品をせしめようと知恵をしぼる。ガジュマルの木の上には戦果品(米兵からせしめたチョコレートや缶詰など)をたくわえる「秘密基地」もある。主人公はハナー。緊張すると洟(はな)が垂れるのでこのアダ名がついた。沖縄では戦争で10万人の民間人が殺された。ハナーは、幽霊が怖くてたまらない。南部の戦場で、死体を踏みこえ逃げのびた父親は、幽霊が怖いなら幽霊と友達になれという。「戦場では、みんな幽霊だ。幽霊にならなきゃ生きていけない。だから死んでも幽霊になって出てくる。幽霊も仲間なんだ。」

 ハナーの姉さんはこんな体験をした。彼女の友達の多くは、ひめゆり学徒隊で亡くなった。ひめゆりの塔にお参りに行くと、ガマから死んだ同級生が彼女の名を呼んで駆け寄ってきた。姉さんはその場に倒れた。ハナーの仲間たちも壮絶な体験をしている。ベーグァと呼ばれる子は、ある静かな朝、家族と村の全員が集団自決で亡くなっているのを見た。ショックで彼は言葉を話せなくなる。ポーポーは、米軍機の機銃掃射で肘から先の片腕を飛ばされた。ハブジローも、両親を失っている。でも、なぜかみんな底抜けに明るい。

 上原は、あとがきで次のように書いている。「戦争が終わり、人々は焦土と化した郷土に着のみ着のまま放り出された。そこには国もない、法律もない、理念もない。あるのはアメリカ進駐軍の掟のみ。昨日まで、命を捧げよと命令した日本軍と日本国が忽然と失せたのだ。…だが、人々には己を見失わない連帯感と平等意識があった。それは大人も子供も、生き残った皆が、地獄のような戦争を体験し心に深い傷を負っていたこと。…こんなわかりやすい平等はない」

 物語には、ハナーの心をゆさぶる旧日本兵が出てくる。彼は戦後、いたるところに放置された遺骨を拾ってガマに納め続ける。「山城軍曹は、戦火に倒れ、無惨に泥土に埋まった屍を掘り起こし、その魂を宇宙(おおぞら)に解放するために戦うことを決意した。それは死者とともに生きることであり、自ら生きた亡霊になることであった」

 今につながる沖縄の闘いの核には、沖縄戦の記憶があるという。山城軍曹の「死者とともに生きる」精神は、辺野古や高江でふんばる沖縄の人たちの中に、世代を超えて生きているのだ。タイトルのキジムナーは、沖縄に言い伝えられる木の妖精。子どもと同じように悪戯もするが、夢をかなえてくれたりもする。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美ほかです。  


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