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木下昌明の映画批評 : 河邑厚徳監督『笑う101歳×2―笹本恒子 むのたけじ』
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●河邑厚徳監督『笑う101歳×2―笹本恒子 むのたけじ』

2人の人生があぶり出す日本100年の歩み

    木下昌明

 最近出た小沢信男の著書『俳句世がたり』にゾクリとする一句が入っている。「死なうかと囁かれしは蛍の夜」男女の艶っぽい情景が目に浮かんでくるような句である。実はこの俳人、鈴木真砂女(まさじょ)が自分の不倫を堂々とうたったものだ。それを知ったのは河邑厚徳(かわむらあつのり)監督の『笑う101歳×2―笹本恒子 むのたけじ』。

 このドキュメンタリーで笹本は、自分の写真集『きらめいて生きる明治の女性たち』の老いた、それでいて凛とした真砂女の数葉の写真をみせながら解説している。その真砂女を含め、気骨あふれる明治女性の魅力を紹介しているシーンに、まずひかれた。

 笹本は、1914年東京生まれで、日本で初めての女性報道写真家として戦中・戦後に活躍した人々や60年安保闘争、炭鉱争議なども撮り続けている。車イスに乗っても、いまだにカメラは離さない。

 むのたけじは笹本より4カ月遅れの15年秋田生まれ。報知新聞社に入社し、戦前、国会でヤジが飛ぶ中で軍部を批判した反骨の政治家、齋藤隆夫にインタビューし、「今のままでは世は闇だ」の記事をものし、後に朝日新聞社に転職。戦後は「もう記事は書かない」と退職し、一時筆を断つも、個人で週刊新聞『たいまつ』を30年間発行し続ける。

 映画はこの2人の人生を多くの写真や資料を使って紹介し、同時に日本の100年の歩みをあぶり出している。観客はそこに自らの半生を重ねてみることができよう。

 この2人が100歳を記念して舞台で対談する。笹本は戦時下に結婚し、「いつ召集令状くるかと、自転車のカチャカチャいう音に息をひそめていた」と、息苦しい日々を語り、むのは「それが戦争だった」と新聞社での自己規制の時代をふり返る。

 そのむのが、早大の学生たちとの対話集会で「憲法9条をみたとき、高々と『たいまつ』のように掲げて、これしかないと思った」と訴える。(『サンデー毎日2017年5月28日号』)

※河邑厚徳監督『笑う101歳×2―笹本恒子 むのたけじ』は6月3日東京都写真美術館ホール他全国順次公開


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