木下昌明の映画批評 : ダルデンヌ兄弟『午後8時の訪問者』 | |||||||
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●ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督『午後8時の訪問者』 なぜ少女はドアホンを押したのか〜医師という職業の重さ(C)LES FILMS DU FLEUVE カンヌ映画祭で2度もパルムドール大賞に輝いたジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟の映画は、ハンディカメラで、何かを求めて行動している主人公の姿を追いかけて淡々とドキュメントする特異なカメラワークで知られている。その舞台も、彼らが若い頃すごしたベルギーの大きな川のある工業都市に限られ、そこでドラマらしからぬドラマを展開するなかに人間と人間の関係としての社会問題をあぶりだすのだ。この兄弟の作品でわたしが好きなのは『息子のまなざし』である。 最新作の『午後8時の訪問者』は、一種のミステリー仕立てになっている。若い女医は、入院している老医師に代わって小さな診療所を切り盛りしている。その晩、女医は研修医と一緒に診療するが、彼はささいなことが元でさっさと帰ってしまう。きっかけは診療受付時間を一時間もすぎて、玄関のドアホンが鳴り、「急患かも」と出ようとする彼を、高飛車に「出なくていい」と押しとどめたことにあった。 翌朝、近くの川岸に身元不明の少女の死体が発見され、訪ねてきた刑事に監視カメラの映像を提供すると、ドアホンを押したのは殺された黒人の少女と判明する。あの時間、もしドアを開けていたら少女は死なずにすんだかもしれない、と女医は自責の念にかられる。 この種の映画に、昔、アンドレ・カイヤットの『眼には眼を』(57年)という傑作があった。それは勤務時間を終えて帰宅した医師の元に「急患」が訪ねてきたが、家には医療道具もなく追い返したために妻を亡くした男から復讐されるものだった。それをみて、人の命を救う医師という職業の重さを痛感したが、この女医も、人の命を救うはずなのに救えなかった。そればかりか、警察で、少女がどこの誰かも分からずに無縁墓地に埋葬されると知って、彼女は少女の写真を手がかりに街をさまようのだ。 映画の特徴は、あくまで医師の務めをきちんとこなしながら、少女は誰なのか、なぜドアホンを押したのか、と名探偵よろしく事件に迫っていくところにある。そこからも今日問題になっている難民問題があぶり出されてくる。 ※『午後8時の訪問者』は4月8日より新宿武蔵野館ほか全国順次公開 Created by staff01. Last modified on 2017-04-06 17:20:09 Copyright: Default |