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「放射能はゼロでなければ安全とはいえない」〜医学博士・崎山比早子さんが講演
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「放射能はゼロでなければ安全とはいえない」〜医学博士・崎山比早子さんが講演

 2017年4月2日、医学博士の崎山比早子さん(写真)の講演会が、さいたま市で行われた。主催は「原発問題を考える埼玉の会」。埼玉県に避難している福島の人や、除染・原発作業に携わった経験者など、60名が集まり、熱気あふれる質疑応答が続いた。折しも、3月31日に浪江町、飯館村、川俣町、4月1日には富岡町が避難解除になったばかり。これによって、3万2千人が「自主避難者」となり、住宅提供や精神的慰謝料が打ち切られることになる。「帰れるんだから帰ればいいじゃないか」という人もいるかもしれないが、避難を解除する基準になっているのは“年間20ミリシーベルト以下”。それを正当化する学者や研究者が居座っていることを、崎山さんは「この国の病だ」と断じた。

●年間20ミリシーベルトの意味するもの

 一般の人の被ばく線量限度は、年間1ミリシーベルトである。20ミリシーベルトは放射線作業従事者の年間線量限度である。放射線作業者が働く放射線管理区域に18歳未満は立ち入ってはいけないし、飲食、喫煙、就寝などはしてはならない。そもそも事故前には、65%以上の放射線作業者の数年から十数年間の平均累積被ばく線量は0・7ミリシーベルト、20ミリを超えた人は17%だという。放射線作業者が働くのと同じ線量下で普通の生活を帰還する人たち(子どもを含む)に強いるのが今回の避難解除なのだ。もちろん最初は、1ミリシーベルトの基準を目指し除染してきた。しかし、フレコンバックの耐用年数は3〜5年。入っているのは土なので、草の根っこが袋を突き破ってしまい封じ込めることができない。3・11後、大気中や水に交じったヨウ素やセシウムで、関東は汚染されているのだが、6年たった今も、福島第一原発の敷地内には事故時に放出された800倍の放射性物質が滞留しているそうだ。これは広島の原爆の13万4千発分の死の灰に相当すると計算されている。

●健康被害の実態

 崎山さんは、低線量被ばくのメカニズムを、医学博士の立場から説明した。はっきりわかったのは、遺伝子は傷がついても修復されるものだが、放射線による傷は複雑なのでなおしにくく、なおしても間違いやすいということだ。間違えるとこれががんの原因になることがある。 

 被ばく者にみられる疾患は、がんだけではない。『チェルノブイリ被害の全貌』(岩波書店)によると、消化器系疾患(慢性胃腸炎、胃潰瘍、肝炎等)、神経系疾患(頭痛、てんかん、学習障害等)、泌尿生殖器疾患(腎障害等)、循環器系疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)多岐にわたり、同時に4〜5種類の疾病にかかったりするのが特徴で、老化が早まったように見える。

 検討委員会は「事故当時5歳以下の子どもからの甲状腺がんが見られないからチェルノブイリとは違う」と言い続けていたが、実は事故の時5才と4才の子どもも発症していた。4歳であった子どもは県立医大で手術を受けていたが、県民健康調査検討委員会に報告されていなかった。検討委員会も甲状腺がん患者が増えているとこと自体は認めている


*帰還政策を急ぐ政府のキャンペーン

●放射線教育の問題点

 崎山さんは、「放射能の安全性に閾値はなく、ゼロでなければ安全とはいえない。これは科学者なら誰でも認めていること。にもかかわらず、『不安にさせてはいけない』という理由で公にしない。住民をあまりにも馬鹿にしている」と憤る。福島県内では環境省作成の『なすびのギモン』というパンフレットが、コンビニやスーパー、役所などに置かれている。ネットで観ることもできるし動画にもなっているのだが、ここには「100ミリ㏜以下では他の要因に隠れてがんの増加を証明することは難しい」等といったことが書かれている。また、放射線教育フォーラムの報告書には「原子力の安全性とは、つまるところ放射線の安全性に他ならない。」「現状を放置しておくと人々が僅かな放射線を恐れて、原子力の需要が進まず、エネルギー問題の観点から日本の前途が危うくなる」という記述があり、この価値観のもとに学校教育が行われているということだ。ベラルーシでは小学校に入学する前の子どもたちに、放射能の危険性や食べてはいけないものなどを教えているというのに、福島県では子どもたちに、手袋もマスクもなしで国道六号(福島第一原発から最も近い国道)の清掃をさせている。何ということだろう。

●不安を持つ人が追い詰められないように

 会場には、いわき市から埼玉に避難しているお母さんが「甲状腺がんでアイソトープ治療が必要になった場合、将来子どもを産めるのか」といった切実な質問もあった。「福島県内の人は不安を感じていないようなので、県外に避難している自分が発信しないといけない」との思いを強く持っているという。崎山さんは、福島県以外でも甲状腺がんと診断された人のために「甲状腺がん子ども基金」を立ち上げた。「通院に交通費がかかったり、母親が仕事を休まなければならないといった問題を持つ人を支援するための基金だ」という。原発の危険性や放射線の影響については『よくわかる原子力』」というウェブサイトを作っているので、危険性を把握し、対策をたてるのに役立ててほしいと語った。

 この報告を書いている矢先に、復興大臣の「原発自主避難は自己責任」発言が飛び込んできた。崎山さんの言葉で締めくくりたい。 「除染作業で数兆円をかけ、作業員を大量に被ばくさせても年間1ミリシーベルト以下にはならない。住民を安全なところに移住させても、数兆円なんてかからないのに。ICRPの放射線防護体系のどこにも、現在の被ばく線量よりも高いところに住民を移動させる政策は見当たらない。日本政府は放射線防護とは逆の政策をし、多くの研究者もそれを批判しない。自分たちの健康を守るためには一人一人が考え、決めていくことが必要。民主的で原発のない社会を築くのは、最終的には個人の力だ」。【有森あかね】


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