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LNJ Logo 木下昌明の映画批評 : 『海は燃えている』『未来を花束にして』
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いま見ごたえのある2本の映画〜『海は燃えている』『未来を花束にして』

●ジャンフランコ・ロージ監督『海は燃えている』

 世界の映面祭で、劇映画を押しのけてドキュメンタリー映画がグランプリを受賞することは滅多にない。だがジャンフランコ・ロージ監督は2013年のベネチアに続き、昨年のベルリン国際映画祭でも『海は燃えている――イタリア最南端の小さな島』で受賞の快挙を成し遂げた。

 その審査委員長が、1月8日のゴールデングローブ賞授賞式で米大統領を批判した、あのメリル・ストリープだと知れば、納得がいくだろう。

 『海は燃えている』はアフリカ大陸からイタリアに向かって続々と船でやってくる難民に光をあてている。それもボロ船につめこまれた難民が「助けてくれ!」と悲鳴を上げている。監督が、その救助に向かう海軍の哨戒艇に乗り込んで撮ったのがこの映画だ。

 イタリアの最南端といえば、昔マフィア映画で有名になったシチリア島を思い浮かべるが、さらに南のアフリカ寄りにもまだ島々がある。そんな島の一つ、リノーサ島を舞台にした『海と大陸』という劇映画が4年前、日本でも公開された。それは夏場になると観光客が押しかける一方で、暗闇に乗じて難民たちも殺到する島の矛盾した現実を描いた映画だったが、『海は燃えている』はその隣のランペドゥーサ島が舞台だ。

 ここでも二つの相いれない現実を描いている。一つはパチンコづくりが得意で小鳥やサボテンを標的に遊ぶ少年とその祖母とおじさんの漁師一家を中心にした島の暮らしぶり。もう一つは、島を脅かす難民の姿だ。20年間で40万人という。この二つの現実を結ぶのは、長年難民と接触してきた島でたった一人の医師だ。

 救助船に助けられて思わず涙する女性たち。一人一人検査所に送られ、チェックされるリビア、シリア、ナイジェリア、エリトリア、チャド、ニジェールなど災厄から逃れた難民たち。そのすさまじい実態にあぜんとなる。彼らを追いたてたものは何なのか――。見終わってずしりとくる。(『サンデー毎日』2017年2月5日号)

*『海は燃えている』は、2月11日より渋谷・Bunkaruraル・シネマを皮切りに全国順次公開。

●サラ・ガヴロン監督『未来を花束にして』

 昨今の国会はろくに議論もせず採決強行の連続で、安倍晋三首相の鶴の一声で一月の衆院選も囁かれている。いかに政治に無関心でもこれでいいのか、と問いたくなる。

 ルソーの『社会契約論』に有名な一節がある。〈イギリス人は自由だと思っている。それは大きな間違いだ。彼らが自由なのは選挙の間だけで、議員が選ばれるや否や奴隷となり、ゼロになってしまう〉。いまの日本に、そのまま当てはまる。

 そのイギリスで一〇〇年余も前に「女性にも参政権を」と闘った人々を描く、サラ・ガヴロン監督の『未来を花束にして』が公開される。ロンドンの洗濯工場で働くモードが主人公で、彼女は七歳のときから働き続け、結婚して幼い息子を育てている。

 その時代、女性は法の外におかれ、男性より労働時闇は長く、賃金は低く、選挙権も親権もなかった。モードは参政権運動にかかわった仲間に議会の公聴会に連れていかれ、その生き方は一変する。彼女が公聴会で大臣に境遇を問われるがままに答えていくシーンが感動的である。

大臣「あなたにとって選挙権とは何か?」
モード「ないと思っていたので意見もありません」
大臣「ではなぜここに?」
 沈黙があって。
モード「もしかしたら……他の生き方があるのでは、と」

 しかし、議会はモードの淡い夢を打ちくだく。彼女は抗議し、投獄され、息子も養子に出され、すべてを失ってしまう。

 映画は実話を基にしていて、当時の指導者にメリル・ストリープがちょい役で出ているが、その存在感は圧倒的だ。これは当時の参政権を求めた女性たちの苦難の歴史の一面を描いている。が、その闘いに誰しもひきつけられよう。

 日本でも平塚らいてうや市川房枝らが闘った。それなのに、いまや参政権そのものがなし崩しにされ、空洞化しつつある。映画は先人たちの思いを無にしていいのかと問うている。(『サンデー毎日』2017年1月22日号)

*『未来を花束にして』は、TOHOシネマズシャンテ、角川シネマ新宿ほか全国公開中


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