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市民に支持された「安全問題」でのストライキ
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黒鉄好@安全問題研究会です。

12月4日、神奈川県川崎市を営業区域とする川崎鶴見臨港バスの労働組合、「臨港バス交通労働組合」が「安全輸送・安全運転」体制の確立を求めて、36年ぶりの24時間ストライキを決行しました。

相次ぐ高速バスの事故などを受け、安全体制確立を求める世論の高まりを反映したのか、このストを支持する多くの声が市民・利用者から上がったことに、時代の変化を感じます。

以下、拙ブログからの転載でお知らせします。

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市民に支持された「安全問題」でのストライキ

<参考記事>なぜ臨港バスは36年ぶりのストに踏み切ったのか(神奈川新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161210-00014093-kana-l14

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【文化部=齊藤大起】最長16時間に及ぶ勤務の「拘束時間」の軽減を求め、川崎鶴見臨港バス(川崎市川崎区)の運転士らが36年ぶりのストライキに踏み切ってから1週間。その訴えは、バス業界全体で長時間勤務や休日出勤が常態化している厳しい労働環境を浮き彫りにした。

■6時間の「中休」

 「カネじゃない、安全のために訴えている」。同社の労働組合幹部は話す。労働条件を巡る「秋闘」の一環で12月4日、組合は24時間の時限ストを実施、横浜市鶴見区を走る一部路線を除き、全ての運行を止めた。

 会社に求めたのは、労働時間外の休み時間である「中休」を減らすことだった。バスは朝夕のラッシュ時間帯に運行が集中し、日中は間隔が空く。そのため、中休を挟んで1人が早朝から夜まで担当することが多い。

 以前は早朝から午後早くまでの「早出」と、午後から深夜までの「遅番」を別々の運転士が担当することが多かったが、同社は「2人を要していた仕事を1人に担当させれば効率よく走らせられる」との理由で、中休の必要性を説明する。

 だが、6時間ほどもある中休は「拘束時間」には含まれるものの労働時間とは見なされず、若干の手当が付くほかは無給。街中へ出たり、いったん帰宅したりできる自由時間とはいえ「夕方からの乗務に備え緊張状態は続く」と労組は主張する。営業所の仮眠室で休憩する社員もいるという。帰宅が遅いことで家族と過ごす時間も削られる。

 中休を含む勤務は、組合の話では総数の約4割に上り、5年ほど前は週1回程度だった頻度が週2、3回に。会社側は「営業所ごとに異なり、一概に割合は示せない」とするが、組合員の一人は「人命を預かる重大さを分かってほしい」と訴える。

■実効性薄い基準

 「そもそも、運転士を守るべき規制が脆弱であることに問題がある」。労働経済学が専門で、バスやタクシーなど運輸業界の実態に詳しい北海学園大の川村雅則教授は指摘する。

 実際、同社が「法令の範囲内で勤務を組んでいる」と強調する通り、16時間に及ぶ「拘束」は、厚生労働省の基準に収まっている。

 同省は「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)でバス運転士の拘束時間を1日16時間、週71時間半まで許容。同基準の意義を「バス運転者の労働条件を改善するため」としつつも「労働実態を考慮して基準を定めた」と、むしろ長時間拘束を容認している形だ。

 その上、睡眠不足への対策も十分でない。労働後の休息を11時間と定めた欧州連合(EU)に比べ、同基準は8時間。例えば、午後11時までハンドルを握った運転士に、翌朝7時からの運転を命じることができるのだ。

 川村教授は調査で「十分な睡眠時間がとれない」と訴える運転士が半数近くを占め、健康や安全に影響を与えている現状を指摘。「自動車には鉄道や飛行機のような自動制御装置がなく、運転者の状態が安全を左右する」として、規制強化を訴える。

 しばしば、バス会社に寄せられる「運転士が無愛想」「運転が乱暴」といった苦情にも、川村教授は着目。「背後に長時間労働による疲労があるのでは、と想像してほしい」と話す。

■背景に規制緩和

 だが、現実は真逆だ。2000年以降の規制緩和のあおり受け、バス事業は過当競争の渦中にある。運転士の給与にも反映している。

 厚労省の統計を基にした川村教授の分析によると、かつて全産業平均を上回っていたバス運転士の平均年収は同年に逆転し、15年は427万円と全産業平均の548万円の8割未満に。15年にわたり120万円以上も下がり続けている計算だ。

 そもそも、かつて全産業平均を上回っていたのも、バス運転士の総労働時間が一貫して長いためで、給与水準が高いからではなかった。川村教授は、運転時間の長さが収入を左右する給与体系自体が、望まない超過勤務や休日出勤を強いられる「強制性と自発性がないまぜになった長時間労働」を生じさせていると指摘。「基本給で生活できる社会を築くべきだ」と話している。
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神奈川県川崎市を営業区域とする「川崎鶴見臨港バス」の労働組合(臨港バス交通労働組合)が、12月4日(日)、1980年以来、実に36年ぶりの24時間ストライキに踏み切った。会社側は、表向き、組合側との協議を続けているようにホームページ上では説明していた。だが、誠意のある姿勢とはとても言えなかったらしく、結局、労使交渉はまとまらないまま、組合側は24時間ストを打ち抜いたようだ。

公共交通機関のストが頻発していた1980年代まで、これらのストに対する市民感情は、賛否相半ばしていた。支持する声ももちろん強かったが、交通機関利用者からは迷惑だとして組合側を批判する声も多かった。こうした批判を気にして、交通機関の労働組合から、いつしか戦術としてのストライキは消えていった。

その結果、記事にあるように、人命を預かる重要な仕事であるにもかかわらず、バス運転手の待遇は全産業平均を下回るようになった。公共交通企業の人員削減と、生活に必要な賃金を確保するための両面から、運転手は長時間労働を受け入れざるを得なくなった。過酷な勤務実態が社会問題化した夜行高速ツアーバスはもちろん、最近は一般の路線バスでも、以前なら考えられなかったようなお粗末な事故が起きるようになってきている。

川崎鶴見臨港バスの、6時間の「中休」を間に挟んだ16時間拘束の勤務形態は、バス労働者の労働条件悪化の象徴例だろう。「中休があるからいいじゃないか」という声もあるだろうが、それは現場実態を知らないからだ。6時間後にまた勤務が控えていると思うと気が休まらないし、仮眠を取ったところで熟睡もできず、疲れも取れないのは当然だ。実質的には拘束時間と言ってよい。「カネじゃない、安全のために訴えている」という労働組合幹部の発言からは、ひしひしとした危機感が伝わってくる。

驚いたのは、インターネット上でこのストライキを「支持」する声が相次いだことだ。例えば、スト決行を伝える臨港バス交通労働組合関係者と見られるツイッターや、ニュースサイトのコメント欄には、次のような感想が書き込まれている。

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・労働者には不当搾取に抵抗する権利がありますからね。ストライキに踏み切った鶴見臨港バスの労働者の皆様には敬意を表すとともに、全面的に支持したいと思います。

・ストライキを馬鹿にしたり、うざいとか迷惑って言ってる奴らは何なの? 条件さえ守ればストライキは労働者の権利なんだよ。ストライキを起こさせたり、ストライキが起こってもある程度は対応出来る仕組みを作ってない企業に文句を言うべき。

・最近落ち込むことも多かったけど、朝バスがストライキ起こしたニュースを見て少し元気になった。ストライキ起こせるあたり日本もまだ捨てたもんじゃないね。労働環境に関する暗いニュース多いから尚更。

・ストライキしてるバス会社があるのか。労働者がものを言える社会は健全だと思う。

・ストライキ権が認められない世の中になったら、ブラック企業がやりたい放題になるよ。ストライキって、世の中に多大なる影響が出るからこそ、やる意味が出るんじゃないのかね。何の影響もないストライキやったとこで、意味ない気がするんだけど。

・この問題を放置しておくと、大きな事故が増える気がする。既に、東急バスで運転士が運転中に眠くなって電柱に激突なんて事故も起きたし…

・バスの運転士は高い運転技術と責任感そして緊張を強いられる。そういう職種の人が安月給で長労働時間っていうのはおかしな話。

・命を預けるわけだから、運転手さんにはベストな状態で働いてもらいたい。
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相次ぐ公共交通の事故とブラック企業の蔓延で、今、明らかに潮目は変わった。ストを支持する多くの声を聞くと、川崎鶴見臨港バス労働者でなくとも元気が出てくる。これらの声が、ストを打ち抜いた労働者に届くよう願っている。

今回、ストライキが市民に支持された理由としては、安全問題を基軸に据えたことが大きいと思う。通勤ラッシュへの影響が最も少ない日曜日をスト決行日に選んだことも、敵に回す市民・利用者を最小限にとどめたいという執行部の判断によるものだろう。こうした柔軟な戦術も、市民の支持を得るために重要なことだと思う。

安全問題研究会は、先のコメント(http://www.labornetjp.org/news/2016/1480947941736zad25714)に見られるように、バスの安全問題にも重大な関心を持っている。国交省は、ツアーバス事故で命と将来を奪われた犠牲者たちに謝罪もしないまま、バス事業の規制強化に舵を切ったが、これは2000年の道路運送法改正による規制緩和を事実上、誤りと認めるに等しい。引き続き、当研究会は「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の改正など、実効ある法制度の整備を求めて行動を続けていきたいと考えている。

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黒鉄 好 aichi200410@yahoo.co.jp

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安全問題研究会サイト
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