レイバー映画祭よありがとう! フクシマ陽太郎です。 4回目の参加。映画の選択に今年もまた大いに感心した。320名の参加者をも喜びたい。 ●『がんを育てた男』 ビデオプレスの対象を選択する着眼点の良さをまたも証明した作品であった。また、カメ ラを回す松原明氏が木下昌明氏の久しい友人で世話をしているという関係が生きていた。 冷静に対象に迫るとともに、大手術という選択しかないと追い詰められるカメラ自身の心情ま でも映していた。 木下昌明氏は生活の質を何よりも大事にするという哲学を根拠に、医師の考え通りの治療 に追い込まれていってしまう、美しい日本のがんワールドとよく戦って勝利する。このあたりは、 ガイドブック『がんを育てた男』に収めた「月刊東京」掲載の彼自身による映画評を読むともっ と明確になる。 「がんよありがとう」と言う木下昌明氏は実にカッコよくて、二枚目の堂々たる主役である。 国会前のデモに通い記録を取る姿ばかりではなく、出血したズボンを映させるのもみじめさ なんて微塵もない。 さらに、戸山ハイツの重ねたおびただしい本もいいし、真っ黒なヤカンもまた美しい。高江で 大弾圧を仕掛けておいて陰に隠れて夏休みゴルフ三昧のどこかの「すっとこどっこい」。そんな 1%の連中よりも数段高貴な精神を映画は映すことができていた。 あらゆる著作を読み、自分の頭で考えてがん治療を選択した行動こそが、本当の社会変革 のひとつだと思う。 今度は『<いのち>を食う』に表現された木下昌明の思想を映画で見てみたい。 ●『ショートビデオ・日本最前線』 レイバーネット日本が提唱するビデオの力をまざまざと示したという意味で大きな意義がある。 プロにならなくても、その現場を切り取って提示できるという気持ちにさせる。 内容では特にフクシマの帰還問題を扱ったビデオに注文したい。空間線量と土のベクレルを 計測して、いかにひどい環境に住まされているかを映像で示せなかったのか。また、20ミリ問 題は特定避難勧奨地点のみではない。1ミリの20倍も高い環境にフクシマが強制移住させら れている理不尽にも触れるべきだと思う。 ●『埋もれた時限爆弾』 素直なタッチだが恐ろしい問題を提示していて怖くなった。映画の本筋とは別に、アスベストに より肺がんになって苦しむ人の姿をみて、アスベストの怖さは無論、肺がんの標準とされる抗が ん剤治療こそが苦しみをもたらすという、つまりがんワールドの医療界の恐怖を味わったのは 私だけではないのではないか。 ●『パレードへようこそ』は胸の熱くなる名作であった。ゲイと炭坑夫の稀有な連帯を描く。 ゲイへの偏見が少ないと思っていた私の心の中の濁りが次々に拭われていった。 炭坑の労働者たちが暖かくゲイを包み、また自らの性に気づいて堂々と胸を張って生きていく。 一方、全国民のなかにあるゲイはみっともない異常者だという偏見の冷たい視線を受け入れ て恥とする労働者をも描く。 闘う者たちへの攻撃は対峙する権力からばかりではない。一般国 民もまた偏見で汚れきっている。正当な権利の要求を応援するどころか排除しようとさえする。 だが、この映画は手をつなぎあう連帯の人間的な美しさの讃歌であった。 我が国の政権党が正当な主張や批判をスキャンダルやちょっとしたネガティブな悪意を貼り付 けて葬るえげつなさは都知事選にもくっきりと見える。分断を仕掛けて連帯を阻むのだ。 つくづく嫌気がさしていたところに、この映画。連帯は可能かもしれないと少しは思える。 レイバー映画祭よありがとう!