28日の日韓両政府による「慰安婦問題合意」に対し、日本のメディアはほとんどすべて「歓迎」「評価」しています。恐るべき事態です。
今回の「合意」は、これまで被害者たちが求めてきた「法的責任」の明言をさけ、したがって「賠償金ではない」と断言し、さらには被害者と支援団体が「歴史
の象徴物であり公共の財産」とする「少女像」(平和の碑)の撤去を要求し、なによりも当事者の被害者たちを蚊帳の外に置いた「政治決着」という点で、絶対
に容認できません。
とりわけ重大なのは、日本のメディアや「街の声」(あくまでもテレビ放映の範囲ですが)が、この問題を「日韓政府間」の問題とし、まるで私たち「日本国民(日本人)」には直接関係ないかのような論調・空気が蔓延していることです。
「慰安婦」問題は、けっして“ひとごと”ではありません。
第1に、今回「準備不足」といわれる中で、両国政府が「合意」を急ぎ、それを「不可逆的な最終決着」などと強弁するのは、いったいなぜでしょうか。
今回の「合意」は、「日韓共通の同盟国である米国から関係改善を求められていた」(29日付毎日新聞社説)結果であり、「日韓双方の背中を押したのは米国だった」(29日付東京新聞社説)のです。「米国の国益に直結するアジアの安定にためには、いずれも米国の同盟国である日韓の協力が不可欠」(29日付共同配信記事)だからです。
外相会談直後の記者会見で、岸田外相が「日韓、米日韓の安全保障協力も前進する素地ができた」と述べたのは、今回の「合意」の本当の狙いが、米日韓の軍事同盟強化にあることを吐露したものです。
しかも、この時期の「米日韓の安全保障協力」には特別の意味があります。
施行間近な戦争法(安保法制)と東アジアの関係について、浅井基文氏(元広島平和研究所所長)はこう指摘します。
「危険極まることは、米韓同盟は朝鮮に対する先制攻撃の可能性を織り込んだ戦略を採用していることだ。米韓が朝鮮に対する軍事力行使を開始すれば、日本が集団的自衛権行使として参戦する可能性が現実味を帯びるのである。
正確に言えば、日本が集団的自衛権を行使するには、韓国の要請がなければならない。韓国の要請がない限り、日本は集団的自衛権を行使できないというのは国際法として確立している原則だ。安倍政権に対して不信感が強い韓国政府は、この点を繰り返し強調している」(「マスコミ市民」10月号)
日本が戦争法によって朝鮮半島で集団的自衛権を行使して参戦するには、日韓の「関係改善」が不可欠。アメリカを間に挟んだ日米韓の軍事同盟を強化し、戦争法による日本参戦の条件を整える。それが今回の「慰安婦合意」の真相ではないでしょうか。
第2に、元「慰安婦」を支援している挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)は今回の「合意」に対する批判の「声明」を発表しました。その中でこう指摘しています。
「今回の発表では、日本政府が加害者として日本軍『慰安婦』犯罪に対する責任認定と賠償などの後続措置事業を積極的に履行しなければならないにもかかわらず、財団を設立することでその義務を被害国政府に放り投げて手を引こうという意図が見える。そして、今回の合意は日本内ですべき日本軍『慰安婦』犯罪に対する真相究明と歴史教育などの再発防止措置に対しては全く言及しなかった」
帝国日本による「慰安婦制度」は、元「慰安婦」の「名誉と尊厳」のみならずあらゆる人権を踏みにじったもので、当時の国際法・国内法に照らしても明白な犯罪行為です。挺対協が指摘しているのは、その加害の責任を明確にせよ、ということです。
「慰安婦制度」の加害性は、いうまでもなく侵略戦争と植民地支配の加害責任と一体不可分です。「慰安婦制度」の加害責任を明確にすることは、侵略戦争と植民地支配の加害責任を明確にすることにほかなりません。
そして日本は、私たち日本人は、いまだにその加害責任を明確にしていないのです。
それは、天皇制の下、敗戦から今日の安倍政権まで引き継がれている歴代自民党政権の一貫した政策です。しかし、政府だけの問題ではありません。私たち「日本国民(日本人)」にももちろん責任があります。歴史の真実を究明し、それを今日に生かす「戦後責任」があります。
とりわけ「慰安婦制度」についていえば、戦争に駆り出された私たちの祖父、曾祖父が、その“利用者”(加害者)となった可能性はけっして小さくはないのです。その孫、ひ孫である私たちが、どうしてこの問題を“ひとごと”だと傍観することができるでしょうか。
「慰安婦制度」はじめ、日本の侵略戦争・植民地支配の加害責任を明らかにし、被害者(国)への謝罪とともに、その教訓を今日に生かす。生かして米日韓軍事同盟体制の強化を許さない。戦争法を廃止し、日米軍事同盟を廃棄して非同盟・中立の日本へ向かう。
それが私たち「日本人」一人ひとりの責任です。それなしに「最終決着」などありえません。
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staff01.
Last modified on 2015-12-30 10:23:33
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