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LNJ Logo 木下昌明の映画批評 : 長谷川三郎監督『広河隆一 人間の戦場』
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●長谷川三郎監督『広河隆一 人間の戦場』

尊厳が失われた「人間の戦場」〜写真家「広河隆一」が見た現実

 広河隆一は、世界を駆け回るフォトジャーナリストとしてよく知られる。

 本誌2011年4月10日号では福島原発事故に迫った彼の写真がグラビアを飾った。その広河の半生を撮ったドキュメンタリー映画が公開される。長谷川三郎監督『広河隆一 人間の戦場』がそれだ。

 広河は「人間の尊厳が奪われている場所を人間の戦場」と呼んでいる。彼の行く先は戦争現場に限らず、パレスチナ、チェルノブイリ、福島だったりする。映画はこれらの「戦場」での広河の活動を追う。監督の長谷川は、前作『ニッポンの嘘 報道写真家 福鳥菊次郎90歳』(12年)で、毎日映画コンクールドキュメンタリー映画賞など多くの映画賞を受賞している。

 では、報道写真家・広河の原点は何か? 1943年生まれの彼は早大を卒業後、イスラエルの農業共同体「キブツ」に研修生として参加する。そこは、第2次世界大戦でホロコーストから逃れたユダヤ人が私有制を廃した理想社会を築こうとする場所――と、広河の目に映った。

 だが、現場は元々パレスチナの村落で、イスラエル軍が、村を壊滅させた跡地と知る。その実態を知り、彼はカメラを持って消えた村人たちを捜し始める。それがジャーナリストとしての出発点となった。

 この彼の活動は本作からも読み取れるが、彼自身のドキュメンタリー『パレスチナ1948・NAKBA』(08年)に詳しい。イスラエル建国とパレスチナ難民の発生が、コインの裏表となった現実に圧倒されるだろう。以降、ユダヤ人によってパレスチナ人は迫害され続けているが、その残虐さは人間の所業とは思えない。

 映画は、広河の歩んだ戦後史とともに、戦争や原発事故などで苦しんでいる子どもたちの〈いのち〉を救う、もう一つの活動に焦点を当てている。「すごい」としか、言葉が出ない。

(『サンデー毎日』2015年12月27日号)

*12月19日より東京・新宿K's cinemaほか全国順次公開 写真(c)2015 aureo


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