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木下昌明の映画批評『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』
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●J・マルーフ、C・シスケル監督『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』

時代に埋もれた“謎の写真家”〜作品に浮かぶ秘めた孤独追う

 謎に包まれた人物を追いかける映画はワクワクする。

 ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル両監督のドキュメンタリー『ヴィヴィアン・ マイヤーを探して』は、シカゴに住むマルーフ青年が、フリーマーケットのオークション で写真のネガ類が詰まった箱を380ドルで競り落としたところからはじまる。写真の所有 主は無名の写真家、ヴィヴィアン・マイヤー。その多くはストリート・スナップで、マル ーフがブログにアップすると「最高!」と大反響である。

 写真には二眼レフを構えた彼女のポートレートが何枚もあり、鼻がすっと高く、ツンと すましている。だが、ネット上には1行の死亡記事だけ。有名な写真家2人に見てもらう と、両人とも「どうしてこれほどの写真家が世に出なかったのか」と驚きを隠さない。

 マルーフは、彼女の遺品からカードやメモ類を探して電話をかけてみる。すると「自分 の乳母だった」という返答ばかり。彼女は優れた写真を撮りながら、なぜ乳母をしていた のか? 生前彼女と関わった人々を訪ねて話を聞くと、異口同音に「風変わりな人だった 」と。彼女はカメラをぶら下げ、よく子どもたちをスラム街などに連れて行った。その街 角の人生を切り取った一枚一枚が味わい深い。

 写真家の映画は数あるが、いずれも功成り名をとげた人の記録で、彼女のようなケース は珍しい。彼女は縫製工場で働いていて「太陽が仰げるところで仕事がしたい」ともらし ていたというから、乳母になることで写真撮影がかなえられたといえようか。

 彼女の二眼レフは正面だけでなく横からも撮れる優れモノで、他人の人生の一瞬を切り 取ることができる。風景写真にも、自分の影を入れて存在を刻印している。そこから彼女 の孤独も浮かび上がる。

 その人生を見ていて、こういう生き方もあるのか、と感慨深い――マルーフはその後、 彼女と関わりの深いフランスへと旅立つ。 (木下昌明・『サンデー毎日』2015年11月1日号)

*東京・渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中。


Created by staff01. Last modified on 2015-10-27 21:52:03 Copyright: Default

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