メディアをめぐる攻防〜もうひとつの「戦争法案」反対運動 | |
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メディアをめぐる攻防〜もうひとつの「戦争法案」反対運動松原 明憲法を投げ捨て「戦争する国」に大きく舵を切る「戦争法案」。この攻防は戦後史の行方を賭けたたたかいだった。ことし2015年の5.3憲法集会に3万人が集まり、反対運動の口火がきられ、5月〜9月までの大闘争となった。そして9月19日未明、インチキな強行採決と数の力でねじ伏せるように「戦争法案」は成立した。 そのなかでメディアの果たした役割はきわめて重要だった。たたかいの半分は「メディア戦」だといってもいい。なかでもNHKが果たした世論誘導は犯罪的でさえあった。いっぽう反対運動の広がりをつくったのは、「東京新聞」「TBS報道特集」「テレビ朝日報道ステーション」「日刊ゲンダイ」などのマスメディアと民衆自身による「ネットメディア」だった。私はこの間、国会前デモをはじめ現場に足を運び「レイバーネット」に記事や動画を流し続けた。そこから見えたもの、感じたことを書いてみたい。 「報道しない報道機関」NHKの犯罪的役割NHKがひどくなっているのはわかっていたが、今回一番許せないのは「国会中継」を意図的にやらなかったことだ。「報道しない報道機関」というコールがNHK包囲デモで叫ばれたが、まさにそれだった。NHKは衆院特別委員会の強行採決も中継しなかったし、参院特別委員会の磯崎喚問の時もやらなかった。かろうじてやったのは首相が出席した委員会質疑のみ。しかも山本太郎の質疑途中で放送を打ち切る事件もあった。参院大詰めの重要な委員会質疑はいっさい流さなかった。私はNHKに「戦争法案」反対報道をしろとは言わない。中立でいい。でもNHKがやることは最低限の判断材料を国民に提供することではないのか。国会審議では賛成討論も反対討論もあるのだから、中継することになにも問題があるはずはない。それを見て判断するのは視聴者であり、NHKは公共放送として「基本情報」を流す責任があった。しかしこれを放棄し、通常番組や高校野球、大相撲を流しつづけたのである。 私もNHKに電話で抗議したが、電話を受ける人は「ご意見ごもっとも。上からの指示で」と答える。後日(9/9)、レイバーネットTVに出演した元NHKプロデューサーの永田浩三さんが語っていたが、その諸悪の根源は「NHK政治部」や番組総責任者・板野総局長でごく一部の人間だという。 →★レイバーネットTV録画(9/9 NHKはアベチャンネルか?) NHKテレビは8.30大デモには10クルーも出しながら、まともな報道をしなかった。この時は主催者発表12万、警察発表3万と併記したが、9.14大デモの時は主催者発表の4万5千人のみ報道した。知らない人は、9.14のほうが8.30より大規模だと勘違いしてしまいそうだ。NHK内部で現場の取材記者からの突き上げもあったのか、終盤にはデモの報道も増えたが、政権寄りの報道姿勢は最後まで変わらなかった。 車道開放をめぐるたたかい今回の国会前のたたかいは「車道開放」をめぐるたたかいだったといってもいい。議事堂前を埋めつくすこと、そしてそれを映像・写真・空撮の形で「可視化」すること。そのことが反対世論を大きく広げる力になる。逆に安倍政権には大きな打撃になり、各界各層に地殻変動をもたらすきっかけになる。だから、政権側は大デモの「可視化」をいかにさせないかが最大の課題だった。8月30日、警察の鉄柵バリケードが決壊し、車道が開放されたとき私はメインステージ横の少し高い場所にいたが、人々が歓声をあげながら国会正門前に押しよせる光景がよく見えた。感動を覚え、足がガクガク震えた。それは大海原に起きた「津波」のようだった。人々の歓声!手を振り上げる人。「やった」という表情がみんな底抜けに明るかった。権力がもっとも怖れたのは、こうした人々のチカラ「ピープルズパワー」なのだろう。 議事堂前を埋めつくした写真は、海外メディアではすぐに大々的に報道された。30日の午後4時すぎ、デモを終えて地下鉄駅に帰る人に「赤旗」号外が配られていた。わずか数時間前に起きた国会前大デモの写真が大々的にカラーで載っていた(写真下)。参加者がうれしそうにその号外を広げて写真を撮っていたのが忘れられない。 マスコミでは「東京」「毎日」「朝日」などが巨大デモの写真を流したが、「読売」「産経」はほとんど扱わなかった。それどころか、「産経」は空撮写真から試算したとして3万2千人と発表した。翌週9月3日、総がかり行動実行委員会の高田健さんは、議員会館前の集会で、「産経の発表は正門前の一部の試算で、行動は国会周辺全体と日比谷公園まで広がっていること、地下鉄4駅の乗降客数だけでも通常より6〜7万多かったこと」などを根拠に怒りの反論をした。8.30が「60年安保以来の大デモ」として刻印されるのか、「通常のデモ」かでは、歴史的事実として大変な違いであり、社会に与えるインパクトもちがう。 車道を占拠されメンツをつぶされた警察。その後の弾圧はすごかった。バリケードの鉄柵を動かそうとしたり警察官に触れたりしただけで「公務執行妨害罪」で次々に逮捕した。それほどの過剰警備にもかかわらず、9月14日の大デモで人々はあふれ、鉄柵が破られ、車道が完全に開放された。そしてふたたび大々的に報道されることになった。 その後、警察の「可視化」阻止の悪知恵はこうだった。あらかじめ2車線を完全に警察車両と鉄柵でブロックして空間をつくり、人が歩道に溢れた場合はそこに参加者を誘導したのだ。アパルトヘイトやパレスチナの鉄条網・壁のように囲む「管理空間」を作った。警察指揮車からサーチライトを向けられて監視される空間。だから、8.30のような「解放感」は乏しかった。このため18日には、4万人以上という三度目の巨大デモになったが、「可視化」という点では必ずしも成功しなかった。(なお16日には13名の不当逮捕があった。9.16国会前弾圧抗議声明) ネットメディアの活躍6月から毎週金曜日に始まった「シールズ」の国会前デモは回を重ねるごとに膨れあがっていった。マスメディアの好意的報道の影響もあったが、かれらがデモの告知拡散の武器にしたのは、フェイスブック・ツイッターなどのSNS「ネットメディア」である。参加者の多くがスマホをもち、デモの様子を生中継している。シールズの若者が演説をするときにスマホの原稿画面を見ながら話すシーンに私は、最初は違和感があったものの、すっかり慣れてしまった。そしていよいよ最終局面の9月18日夜の参院本会議採決をめぐる攻防になった。この日はさすがにNHKも中継した。またネットでは「参議院インターネット審議中継」サイト・ヤフー、ニコニコなどが流していた。国会前のデモ参加者の多くはそれらをスマホで視聴して最新情報をつかんでいた(写真上)。そして、コールをあげていた。だから、福山哲郎議員や小池晃議員の演説タイムに合わせて「福山がんばれ」「小池がんばれ」のコールを、議事堂に向けてあげることができた。次に公明党議員の発言の番がきた。出てきたコールは「公明党よ恥を知れ!」だった。 国会の内と外をつないだリアルタイムのたたかいが、こうしてネットメディアを駆使することで実現した。それは私にはとても新鮮だった。午前2時すぎ、山本太郎の5回目の「一人牛歩」が始まった。議場内では与党議員がものすごいヤジと罵声を山本議員に浴びせていたが、国会前は逆だった。「タローがんばれ」「タローがんばれ」の大コールが起きていたのである。 本会議採決は19日午前2時18分だった。それを受けて、リーダーの奥田愛基さんが「採決撤回!」の声を上げた。そのコールが一段落したところで、奥田さんはたくさんのカメラに向かってこう呼びかけた。「いまネットで見ている人たちに訴えたい。こんな状況を許してはならない。あなたも声を上げてください。賛成議員を落選させよう。選挙に行ってほしい。デモに行ってほしい」と。そしてすぐに「選挙に行こうよ!」「デモに行こうよ!」の大コールが始まった。午前3時、国会正門前に残った若者たちは1000人くらいだと思う。しかし、国会前のたたかいはネットを通して、日本中にいや世界中に発信されていたのだ。 安倍政権は「戦争できる国」に向かってまたひとつコマ進めた。しかし、その前に立ち塞がる民衆の壁が大きく生まれたことも間違いない。メディアをめぐるたたかいはこれから一層熾烈になるだろう。私もレイバーネットで報道を続ける他のメンバーと一緒に、ビデオカメラを持って参加し続けたい。(レイバーネット日本共同代表) Created by staff01. Last modified on 2015-09-22 21:08:05 Copyright: Default |