木下昌明の映画批評 : 小熊英二監督『首相官邸の前で』 | |||||||
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●小熊英二監督『首相官邸の前で』 手探りでつむぐ新しい“うねり”〜原発事故以降の脱原発を追う小熊英二監督の『首相官邸の前で』は刺激的だった。東日本大震災以降、人々が国や東京電力に対してなぜ怒り、脱原発の声を上げはじめたか――その過程を追ったドキュメンタリーである。 小熊といえば、『〈民主〉と〈愛国〉』『1968』などの著書がある歴史社会学者として知られる。彼は首都圏反原発連合の活動にも協力し、国会周辺でよく見かけるが、撮影している姿は一度も見たことがない。その彼がどうして? と疑問だったが、実はネット上に投稿された自主撮影映像を撮影者から無償で提供してもらい、当時の首相・菅直人をはじめ福島からの避難者・亀屋幸子、反原発団体リーダーのミサオ・レッドウルフら8人の発言を挿入して構成している。そのための撮影・編集は石崎俊一が担当し、2人で作ったという。 映画は原発事故の映像と8人の体験談から始まり、ツイッターで呼びかけた高円寺の「素人の乱」のデモ、新宿アルタ前でのデモなど紆余曲折を経ながら次第に抗議活勧が広まる様子を流していく。 当初、黙殺を続けるマスコミに発言者たちはショックを受け、「この国は抗議をしない国なのか」「日本社会は波風の立つ話題は避けたがる」と話していたが、ついにデモは2012年6月29日の官邸前で20万人(主催者発表)にまで膨れ上がった。 これらの断片をつないだ映像は、すっかり忘れていたことを蘇らせる。デモ参加者が車道を埋め尽くしたその時、リーダーが危険を察知して行動を打ち切ったシーンが印象的だ。この判断が抗議行動を一過性に終わらせず、息の長い活動に発展させた。 興味深かったのは、社会運動などに無縁だった若い人たちが、やむにやまれず声を上げる、手探りで新しい運動を作り出すさまを捉えた点だ。そこに小熊の歴史社会学者としての面目を見ることができる。(『サンデー毎日』2015年9月20日号) *9月19日より渋谷アップリンク(隔週水曜日はゲストを交えたトークシェア上映を開催)ほか全国順次公開。 〔木下追記〕 この映画はタイトルにあるように、首相官邸前を拠点に抗議行動を展開している反原連の運動に焦点をあてたものです。「さようなら原発1000万人アクション」やテントひろばなどのたたかいについては、ほとんどドキュメントされていません。そのことでの視野の狭さはまぬかれませんが、新しい運動の一つの試みとしてみられることを希望します。 Created by staff01. Last modified on 2015-09-14 22:57:24 Copyright: Default |