木下昌明の映画批評『アラヤシキの住人たち』 | |||||||
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●本橋成一監督『アラヤシキの住人たち』 誰もが生きてていい場所〜「共働学舎」に生き方の原点問う*(C)ポレポレタイムス社 なんとも不思議な映画だ――本橋成一監督の『アラヤシキの住人たち』の第一印象である。アラヤシキとは「新屋敷」と書くが、名に反して宮崎駿のアニメにでも出てきそうな、茅葺きの古くて大きな2階屋がでーん。そこにいつも15人前後の人々が暮らし、野良仕事に励んでいる。といっても、どこかのどかで、のんびりしている。家は北アルプスを望む長野県北安曇郡小谷村にある。 春、車の通らない雪解けの山道を登っていくところから映画は始まる。自由学園の教師だった宮嶋眞一郎が、「競争社会ではなく協力社会」を作ろうと、40年前に「真木共働学舎』を創設したのが始まりという。 現在60歳になる次男の信(まこと)が、父の遺志を継いでやっている。広い食堂にはメンバーの名前を書いた黒板があり、犬や山羊や猫の名もある。 昔、ここで今村昌平監督の『楢山節考』が撮影されたというから、決して豊かではない。そんな地で共働で生きることができるのだろうか? 映画は春の田植え、夏の干瓢(かんぴょう)の天日干し、秋の稲刈り、冬の雪かき……。そして山羊の出産があり、住人の赤ん坊が生まれて、野外での結婚式もあるといった、自然に溶け込んだ日常の営みが点描されていく。 興昧深かったのは、一人の青年が、夏にプイッと出かけたままで春先にひょこっと帰ってくる。彼を受け入れるかどうかで話し合うシーン。「はい、どうぞどうぞとはいえない」とわだかまりをもつ仲間、主(あるじ)の信が「ここは戻ってこようと思った時にいつでも戻ってこれる場所じゃないの」と話す。その感じが好きだ。楽ではないのだろうが、誰もが生きてていいんだ、と思える場所があっていい。 写真家としても活躍する監督の本橋成一は自由学園出身で、宮嶋先生に教わったことがあり、共働学舎に関心があった。学舎には5年ほど前から通い始め、かつて教わった生き方の原点を再発見し、表現したのがこの映画だ。 それにしても、都会であくせくしていると、ゆったりした牧歌的な生活をみているだけで心が洗われてくる。(『サンデー毎日』2015年5月24日号) *東京・ポレポレ東中野にて公開中。全国順次公開。 〔付記〕転載にあたって若干加筆しました。 Created by staff01. Last modified on 2015-05-18 12:28:25 Copyright: Default |