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木下昌明の映画批評 : 英国映画『パレードにようこそ』〜ゲイと炭坑夫の連帯は可能か
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ゲイと炭坑夫の連帯は可能か
  〜マシュー・ウォーチャス監督『パレードへようこそ』

 英国映画の『パレードへようこそ』はのっけから軽快な勇ましい歌ではじまる。

 ♪組合の精神が労働者の血となれば
 ♪世界で最強のパワーとなる
 ♪一人では小さな力しかなくとも
 ♪組合が我らを強くする
 ♪連帯よ 永遠なれ!

 実はこれ、♪おたまじゃくしは蛙の子…、で知られる南北戦争時にはやった「ジョージア行進曲」の替え歌なのだ。替え歌といえばレイバーネットTVで歌っているジョニーHや毎月、経産省前で役人たちに配布している笑い茸の替え歌など思い出すが、「歌は世につれ世は歌につれ」ではないけれど、替え歌もいつかは本歌となる。この組合歌だって、英国の労働者を鼓舞する立派な歌になっている。日本でも誰もが親しめるメロディーを利用して労働歌をつくってみては―と、こんなことを書いたのは『パレードへようこそ』はけっこうおすすめの映画だからだ。

 時代は1983年から84年の一年間、サッチャー政権とゼネストで対決した炭鉱労働者とそれを支援したゲイ&レズの会との葛藤や連帯を描いたものであるが、これが実話に基づいた作品というから驚く。

 サッチャーといえば、レーガンと手に手をとって人間が人間を食うグローバリゼーションの世界をつくった張本人。先ごろ、その彼女の映画がメリル・ストリープの熱演で公開されたが、そこでは悪玉扱いされる炭坑組合の争議も断片的に出てくる。もっぱら夫婦愛を中心としたどうでもいいような作品だった。

 その点『パレード…』は、原題が『プライド』とあるように、サッチャーによって労働運動の屋台骨をへしおられたり、人間としての尊厳を踏みにじられた人々の「プライド」をうたい上げたものである。これは集団劇なのだが、なかでも目をひくのは実在したゲイの青年マークの活躍ぶり。彼は26歳の若さで亡くなるのだが、映画ではその彼が炭坑夫と警官がわたり合うテレビニュースをみて「炭坑夫もゲイと同じだ。いじめに遭っている」と、早速「炭坑夫支援のゲイ&レズの会」を立ち上げて、街頭でカンパを呼びかける。

 ところがせっかくカンパを集めてもゲイと聞いただけで電話が切られる始末。それが遠いウェールズの炭坑の村で、勘違いから「いいですよ」と受け入れてくれる。その上、村では募金のお礼にと彼らを招待するのだ。

 さあ、そこからが大変、炭坑夫とゲイやレズはこれまで一度も会ったことがない。全く違った世界なのだ…と思われた。また、その時代、エイズがはやっていて、嫌悪を抱く村人もいて、彼らを排除しようと新聞社に密告する。そんななかで果たして「連帯」の握手は可能だろうか。ここが映画の見どころとなっている。ラストシーンには胸が熱くなる。(木下昌明)

●この映画批評は『労働情報』908号(4/1付)に発表されたものです。同編集部のご厚意でレイバーネットにも転載させていただきました。なお『労働情報』の購読はホームページから申し込めます。『労働情報』HP

*映画は「銀座シネスイッチ」で上映中。写真=(C)PATHE PRODUCTIONS LIMITED. BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE 2014. ALL RIGHTS RESERVED.


Created by staff01. Last modified on 2015-04-14 11:26:41 Copyright: Default

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