木下昌明の映画批評:アウシュビッツ解放70年、クロード・ランズマン監督『不正義の果て』 | |||||||
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●クロード・ランズマン監督『不正義の果て』 アウシュビッツ解放70年に贈る――現代人の生き方問う骨太3作品今年、アウシュビッツ解放70年を迎えた。これに寄せてユダヤ系フランス人のクロード ・ランズマン監督のドキュメンタリー3本が同時公開される。 1本目は『ショア』(1985年)。強制収容所から生還したユダヤ人の証言を中心に収録し た9時間27分の超大作。日本では1995年に公開され、大きな反響を呼んだ。次は『ソピブル 、1943年10月14日午後4時』(2001年)で、ユダヤ人の集団脱走事件の証言。最後は『不 正義の果て』(2013年)。筆者はこの最新作に注目した。 アイヒマン裁判を描いた『ハンナ・アーレント』(2012年)が日本でも評判になった。ユダヤ 人哲学者のアーレントはアイヒマンを「凡庸な小役人」と批判する一方で、そのアイヒマ ンにユダヤ人評議会が協力して、同胞を絶滅収容所に送り込んだことを告発した。 『不正義の果て』は、その評議会の最後の生き残り、ベンヤミン・ムルメルシュタインを 「最も聡明で勇敢な長老」と讃え、長時間のインタビューを行っている。長老は7年に及 んだアイヒマンとの関係から、彼の隠されたユダヤ人迫害や収賄などを明らかにし、「ア イヒマンが凡庸だと?笑わせる」と一蹴する。長老はアイヒマン支配下の特殊な収容所に 入れられ、国際赤十字の視察を受けた時は「模範ゲットー」として、赤十字の目をごまか す“美化”に協力した。 「なぜ協力したのか」と監督が問い詰めると、長老は「ベッドや棚の木材が貰えるなら 貰おう」と、見せかけの美化を逆手にとって生き延びることを図ったと答える。アイヒマ ンに協力したからこそ、収容所も破壊されず自らも生き残った、と説く。 長老の証言は40年前のもので、監督は公開に「二の足を踏んだ」という。あえて映画化に 踏みきった裏には、「アーレント」映画への異論があったからだろうが、さてこの難問を どう考えるか――わたしたちの生き方も問われてくる。 (木下昌明・『サンデー毎日』2015年2月22日号) *2月14日〜3月6日まで東京・渋谷シアター・イメージフォーラムにて限定公開。 〔追記〕20年ぶりに『ショア』をみて、ナチスの犯罪のすさまじさに戦りつしました。ラ
ンズマンの映画をみていない方は、この『ショア』からみられるといいと思います。戦争
の裏側のおぞましさがみえてきます。一例ですが、そこでは各巻ごとに石炭列車(貨車)
の走るシーンがひんぱんに出てきます。当時、アウシュビッツなど数多くの収容所への移
送は、すべて列車が行っていました。貨車を50両もつないだ列車にユダヤ人をつめこみ走
らせるのですが、この時、アイヒマンの課がこれを担当していました。列車のダイヤをく
むのがいかに重要だったか映画からみえてきます。 Created by staff01. Last modified on 2015-02-14 09:05:20 Copyright: Default |