牧子嘉丸のショート・ワールド(16)〜アンネ・フランク没後70年の今 | |||||||
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アンネ・フランク没後70年の今「アンネの日記」の作者アンネ・フランクは、1945年の二月末か三月初めにドイツのプロイセンにあったベルゲン・ベルゼン強制収容所で亡くなったといわれ、今だに正式な死亡日時は判明していない。その日記は1942年6月12日から始められ、1944年8月1日の日付で終わっている。アンネが13歳から15歳にかけての時期だった。 1944年3月29日、戦争が終わったら戦時中の国民の日記や手帳を集めてその苦難を集大成するというロンドンからのオランダ語放送を聞いて、俄然意欲を燃やすようになる。結果、日記は残ったが、若い作者は死んだ。 もしかしたらとアンネは思ったかもしれないが、これほど世界的に読まれようとは想像できなかっただろう。しかし、この日記は栄光と称賛ばかりに包まれてきたのではない。その陰には絶えず中傷と疑惑にさらされてきたのも事実である。発刊当初からすでに偽書や捏造であると誹謗され、果ては作者の実在まで疑うような意見もあったという。 わが国でも「日記」破損という恥ずかしい事件が昨年起こったことはまだ記憶に新しい。このとんでもない事件にはそれなりの下地があって、アンネたちユダヤ人の大量虐殺を謀ったナチスの手法を何とか真似できないかと発言するような人間が副総理をやっている国なのである。 極めつきは、同じく三代目の首相で、イスラエルのホロコースト博物館を訪問して「特定の民族を差別し、憎悪の対象とすることが人間をどれほど残酷にするかを学ぶことができました」などと得々と話している。自国の在日朝鮮・韓国人へのヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムを野放しにし、これらのレイシストと親密な関係を持つ人間を閣僚に入れておいて何を言うか。 今、問題になっているイスラム国の人質事件も、イスラエルでの無知で不用意な、ある意味挑戦的な発言が引き金になったことは、スピーチ直後に人質解放のために2億ドルの要求がなされたことからもわかる。 アベたちはこの事件を奇貨として、あるいは思惑通りにテロとの闘いの名目で、米軍に加担し、また邦人救出を口実に自衛隊の海外派兵を目論んでいることは間違いない。 これに対して、「心の底から許せない」と憤り、「ゴンゴドウダンなどと壊れたテープレコーダーのように繰り返し、国の内外で命を軽んじ続ける安倍政権」と批判した共産党の新人女性議員のツイッターが適切でないと削除されたという。 理由はイスラム国の蛮行への批判がない、今は政府の救出の対応に協力すべきだというのである。人質を盾にとって身代金を要求し、飲まなければ殺害するような連中への非難・批判はもちろん前提としてあるのだ。この新人議員は、そういう相手をわざと刺激・挑発するような発言への批判である。この女性議員にたいして、「見境なく安倍政権を批判する習性が身に染みついてしまっているようだ」と自民党関係者は冷ややかに語ったそうだが、まさに最高の賞め言葉ではないか。 見境なく平和や安全、暮らしを破壊しているアベ政権を見境なく批判し「その政権の存続こそ言語道断」と糾弾しているのはまったく正当であり、適切である。沖縄・辺野古基地反対闘争における見境ない暴力をみよ。「テロとの闘い」をいうなら、沖縄人民へのテロをやめろ! 今世界中にアンネの兄弟姉妹がいる。「ユダヤ人とか、ユダヤ人でないとかにかかわらず、わたしがたんにひとりの少女であり、はしゃいだり、笑ったりすることを心の底から欲している、このことをわかってくれるだろうか」と誰にも話せず日記に書き付ける。こんな素朴な願いをどれほど多くの国や地域で少年少女は抱いているだろうか。 今年はまたアウシュビッツ解放70周年でもある。ホロコーストの歴史と記憶をどう伝えるかが課題になっている。しかし、その存在すらなかったとするホロコースト否認の策動さえある。そのなかに、少し変わった意見もある。前イラン大統領のアフマデネジャードはこう述べている。 「現実のホロコーストはパレスチナにおいて探し求められるべきである。圧政に苦しむ人々が毎日のように血を流している。イラクでも同様だ。一部の西側政府、特にアメリカ政府は予言者ムハンマドへの冒涜を認めている。ホロコーストの神話、すなわちシオニストが過去60年間他国に対して圧力を振るい、罪なきパレスチナ人への殺害を正当化する根拠として用いられている。ホロコーストの神話は拒絶する」 ホロコーストの歴史は事実である。しかし、それ故にイスラエルは無謬(むびゅう)ではないし、パレスチナ占領の根拠にはならないのである。彼らは新しいアンネを生み出しているのだ。 日記の最後にこんな一節がある。「この世界が徐々に荒廃した原野と化してゆくのを、わたしはまのあたりに見ています」と混乱と惨禍を嘆きながらこう続けている。 「幾百万の人びとの苦しみをも感じることができます。でも、それでいてなお、顔をあげて天を仰ぎみるとき、わたしは思うのです……いつかはすべてが正常に復し、いまのこういう惨害にも終止符が打たれて、平和な、静かな世界がもどってくるだろう、と。それまでは、なんとか理想を保ちつづけなくてはなりません。だってひょっとすると、ほんとうにそれらを実現できる日がやってくるかもしれないんですから。 この日から2週間余り後に彼女たちは逮捕されたのである。 Created by staff01. Last modified on 2015-01-30 12:15:44 Copyright: Default |