本文の先頭へ
ヒューマンライツウォッチ :米国 たばこ農場で働く子どもに深刻な健康被害
Home 検索
米国:たばこ農場で働く子どもに深刻な健康被害
米国政府とたばこ会社は保護策の導入を

ビデオMade in the USA: Child Labor and Tobacco (8分20秒) はこちら:http://youtu.
be/0-8TBceaO5Q
英語オリジナル:http://www.hrw.org/node/125490
日本語リリース:http://www.hrw.org/node/125515

(ワシントンDC、2014年5月14日)米国内のたばこ農場で働く子どもはニコチンや有毒な
農薬などの危害に晒されていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で
述べた。米国法は子どもへのタバコ製品の販売を禁じるものの、子どもがたばこ農場で働
くのは合法だ。世界の主要なたばこ会社は、米国産のたばこを買い付けている。だが児童
労働に方針を定めて、子どもを危険な労働から十分に保護する企業は存在しない。

今回の報告書「たばこ葉の陰で:米国たばこ農場での有害危険な児童労働<http://hrw.or
g/node/125316>」(全138頁)は、米国でのたばこ生産シェアの9割を占める4州(ノ
ースカロライナ、ケンタッキー、テネシー、バージニア)のたばこ農場で働く子どもの状
況を調査記録したものだ。子どもたちは作業中に嘔吐、吐き気、頭痛、めまいなどを感じ
ると話した。これらの症状は重篤なニコチン中毒と一致する。多くの子どもが、残業手当
なしで長時間労働に従事している。また炎天下の直射日光を浴びて作業したり、十分な休
憩がないことがよくあったと述べた。保護具は一切ないか、あっても不十分だった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの子どもの権利調査員で報告書執筆者の1人マーガレット
・ワース<http://www.hrw.org/bios/margaret-wurth>は「学年末の休みになると、子
どもたちはたばこ農場に働きに出て有害なニコチンにさらされる。たばこを一本も吸わな
いのに」と、述べる。「たばこ農場で有毒物質にさらされた子どもの具合が悪くなるのは
当然だ。」

報告書は、たばこ農場で働く7歳から17歳の子ども141人へのインタビューに基づく。

たばこ農場で働く子どもはほかにも深刻なリスクを抱えていると、ヒューマン・ライツ・
ウォッチは述べた。危険な器具や機械を使い、重い荷物を運び、葉たばこを乾燥させるた
めに納屋のかなり高いところに安全保護具なしで上ることもある。すぐ近くの畑でトラク
ターが農薬を散布していたとの報告もあった。散布された農薬が自分たちの方に流れてく
ると、嘔吐したり、めまいを感じるほか、呼吸困難や目に燃えるような痛みを感じると言
う。

たばこ栽培で使われる農薬の多くは神経毒に該当する。子どもは長期的な農薬曝露によっ
てがんのリスクを抱えるほか、学習や認知に支障が出たり、生殖機能に問題が生じること
もある。子どもは、その身体と脳が発達段階にあるため、特に被害を受けやすい。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは米国内外のたばこ会社10社に書簡を送った。うち多くと
会談し、自社のサプライ・チェーンで危険な児童労働が実施されないようにする方針を導
入するか、既存の方針を強化するよう促した。

「たばこ会社は危険な児童労働から利益を得るべきではない」と、前出のワース調査員は
述べた。「企業は責任を持って、たばこ農場での危険な児童労働を防ぐ明確で包括的な方
針を策定し、農場側に遵守させるべきだ。」

子どもの健康への悪影響
米国では毎年数十万人の子どもが農業分野で働く。だが、たばこ農場で働く子どもの数に
ついてデータはない。ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューした子どもの多くが
、11歳か12歳でたばこ農場に働きに出たと述べた。季節は主に夏で、家計を助けることが
目的だ。働く子どもたちの多くがヒスパニック系移民だ。たばこ産地に住み、他の子と同
様に通学している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューした子どもたちは、たばこ農場で働いてい
る最中に急にとても具合が悪くなったときの様子を詳しく話してくれた。「直射日光を浴
びて作業しているときになります」と、ケンタッキー州の少女(16)は言う。「吐き気を
感じるの。のどが乾くから水を飲みますよね。でもその水のせいで余計に具合が悪くなる
。[葉たばこの]刈り入れをしているその場で吐いてしまうのですが、手を休めるわけに
いきません。」ノースカロライナ州の少年(12)は、働いているときに起きた頭痛の様子
を説明する。「頭がガンガンして。頭のなかで何かが頭を食べようとしているような気分
でした。」

重いニコチン中毒(緑タバコ病)は、労働者が葉たばこ(とくに濡れている場合)を扱う
際に皮膚からニコチンを吸収して起きる。典型的な症状は、吐き気、嘔吐、頭痛、めまい
だ。長期的な影響ははっきりしないが、思春期のニコチン曝露は脳の発達に影響を及ぼし
うるとの研究結果<http://www.surgeongeneral.gov/library/reports/50-years-of-progr
ess/50-years-of-progress-by-section.html>もある。

数人の子どもがヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、鋭利な器具や重い機械を使った作
業時に負傷したと述べた。ケンタッキー、テネシー、バージニア各州では、子どもは手作
業で葉たばこを収穫することが多い。葉たばこをなたで切り分け、先の尖った棒状のもの
に茎を差すのだ。子どもたちによれば、手や腕、脚や足を切ったり、刺してしまうことが
ある。ある少年(16)はテネシー州でたばこの収穫をしていて事故に遭った。「なたで切
ってしまったのです。静脈を切ってしまったのか、血が止まらなかった。病院に行く羽目
になりました。足は血だらけでした。」ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューし
た少年(17)は、小さな葉たばこの丈を揃える芝刈り機の事故で指2本を失った。

雇用主が労働安全衛生に関する研修を行ったり、保護具を配ったりしていたという回答は
ゼロに近かった。露があったり雨が降ったりしている農場で作業するときには、保護具の
代わりに黒いプラスチックのゴミ袋をかぶって身体を覆い、服を濡らさないようにしてい
る子どもが多かった。

労働死亡災害の発生状況に関する連邦政府の統計によれば、若年労働者が就労できる産業
のなかで農業が最も危険だ。労災で死亡した18歳未満の子どもは3分の2が農業労働者で、
負傷した子どもは1,800人以上だ(2012年)。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューした子どもの大半は、作業場にはトイレや
流し場がなく、手にたばこと農薬がついた状態のままだと言う。食事をするときすらその
ままだ。

米国法の保護から除外された子どもたち
米国の労働法では、農業分野で働く子どもにまだ小さい段階から長時間労働を認めており
、全産業分野でもっとも危険な状況で子どもが働くことを認めている。親の承諾さえあれ
ば、農場側はその規模に関わらず、わずか12歳の子どもを学校の課外時間に雇うことがで
きる。時間数に上限はない。小規模農園で働く子どもについては就労最低年齢がない。16
歳になると、子どもの農業労働者は米労働省が有害危険と認める職に就くことができる。
その他の産業分野では最低年齢は18歳だ。2011年の労働省の規制案では、16歳未満の子ど
ものたばこ農場での就労が禁止されるはずだった。しかし2012年にこの案は撤回<http://
www.hrw.org/news/2012/04/27/us-labor-department-abandons-child-farmworkers>
された。

「米国政府は、たばこ農場などで就労する子どもの農業労働者の健康と安全をしっかり保
護しておらず、米国の家族に対する義務を怠っている」と、前出のワース調査員は指摘し
た。「オバマ政権は、たばこ農場での労働が子どもにとって有害危険であることを明確に
認める規制を定めるべきだ。また議会は、子どもの農業労働者に対して、他の産業分野で
働く子どもと同等の保護を与える法律を定めるべきだ。」

たばこ会社
ヒューマン・ライツ・ウォッチは今回の調査結果と提言/勧告を、米国産葉たばこを購入
する企業10社に提示した。うち、たばこ製造会社は8社(フィリップ・モリスUSAの親会社
アルトリア・グループ、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、中国たばこ総公社、イン
ペリアル・タバコ・グループ、日本たばこ産業、ロリアード、フィリップ・モリス・イン
ターナショナル、レイノルズ・アメリカン)で、残り2社は、たばこ製造会社に葉タバコ
を提供する国際的な葉たばこ会社(アライアンス・ワン、ユニバーサル・コーポレーショ
ン)だ。

中国たばこ総公社以外の9社は回答を寄せ、自社のサプライ・チェーンにおける児童労働
の状況を懸念していると述べた。しかし、これら企業の対応では子どもたちを有害危険な
労働から十分に保護することはできないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。
なかには、米国内の自社サプライ・チェーンについては、葉たばこ取引がある他のすべて
の国のたばこ農場で働く子どもよりも、低い保護基準を容認している場合もあった。

フィリップ・モリス・インターナショナルは、ヒューマン・ライツ・ウォッチが接触した
企業の中で、児童労働についてもっとも包括的な世界レベルでの政策を採用している。20
10年以降、フ社は全世界のサプライ・チェーンについて研修とモニタリングを行う方針の
実現に取り組んでいる。2009年にヒューマン・ライツ・ウォッチは、フ社のカザフスタン
の子会社に葉たばこを供給する農場での人権侵害を明らかにした<http://www.hrw.org/ne
ws/2010/07/14/kazakhstan-migrant-tobacco-workers-cheated-exploited>。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれら企業に対し、健康被害と安全上のリスクがあるす
べての作業に、子どもを従事させることを禁じるよう強く求めた。たばこの草や乾燥した
葉たばこに直接触れる作業も、ニコチン曝露のリスクから禁止対象となる。企業側はまた
、労働方針について内部と第三者が行う効果的なモニタリング態勢を構築すべきだ。

「農業はもともと重労働だが、たばこ農場で働く子どもたちは実際に吐くほど具合が悪く
なっている。農薬を全身に浴び、保護具をまったくつけていない状態だ」と、前出のワー
スは述べる。「たばこ会社は、子どもたちがたばこ農場での有害危険な作業に従事するの
を止めさせ、教育を受けたり別の仕事に就く機会を提供すべきだ。」

本報告書「たばこ葉の陰で:米国たばこ農場での有害危険な児童労働 」はこちら:
http://hrw.org/node/125316<http://HRW.pr-optout.com/Tracking.aspx?Data=HHL%3
d8%2b86%3a7-%3eLCE593719%26SDG%3c90%3a.&RE=MC&RI=3771700&Preview=False&Distribut
ionActionID=55441&Action=Follow+Link>

ヒューマン・ライツ・ウォッチによる子どもの権利に関する情報の詳細はこちら:
http://www.hrw.org/topic/childrens-rights<http://HRW.pr-optout.com/Tracking.
aspx?Data=HHL%3d8%2b86%3a7-%3eLCE593719%26SDG%3c90%3a.&RE=MC&RI=3771700&Preview=
False&DistributionActionID=55440&Action=Follow+Link>

ヒューマン・ライツ・ウォッチによる米国の農業分野における児童労働に関する情報の詳
細はこちら:
http://www.hrw.org/news/2010/05/05/us-child-farmworkers-dangerous-lives<http
://HRW.pr-optout.com/Tracking.aspx?Data=HHL%3d8%2b86%3a7-%3eLCE593719%26SDG%3c90
%3a.&RE=MC&RI=3771700&Preview=False&DistributionActionID=55439&Action=Follow+Lin
k>

Created by staff01. Last modified on 2014-05-14 14:19:12 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について