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木下昌明の映画の部屋 : 知られざる現実にスポットをあてる〈レイバー映画祭〉
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知られざる現実にスポットをあてる〈レイバー映画祭〉
  ドキュメンタリー映画『A2-B-C』など5本

 

「A2」の意味をご存じだろうか。放射線による甲状腺への影響を見る検査で、のう胞なしがA1、しこりやのう胞が見つかればA2、Bはそれらが大きくなったもの、Cは二次検査が必要とされる。

 市民グループによって、関東圏で1本のドキュメンタリーが上映されている。イアン・トーマス・アッシュ監督の『A2―B―C』がそれだ。

 監督は滞日歴13年のアメリカ人で日本語がペラペラ。カメラを持って、東日本大震災から1年半後の福島県(主に伊達市)の母と子どもに焦点を当てている。

 一人の母は「息子は大量の鼻血で2度倒れた」と訴え、5、6人いた子どもは一様に自分は「A2」と答える。「白血病になって死んでしまう」と平然と答える子も。また、もう一人の母が小学校の校庭の外で地面に線量計を当てると、毎時35マイクロシーベルトもある。教頭は取材を拒否するが、「ホットスポットがある方が問題だ」と監督は抗議する。福島の隠された“いま”に光を当てている。

 「レイバー映画祭2014」(7月26日・東京)では、この映画をはじめ5本を上映する。原発をテーマにした作品では、千葉茂樹構成の『あしたが消える どうして原発?』がある。これは、25年前にチェルノブイリ原発事故をうけて日本にも同じ問題があるとして福島第1原発の危険性を追及したもの。が、当時は日の目を見ることはなかった。

 また、高校生のラグビー試合を通して在日朝鮮人の苦難の歴史を描いた『60万回のトライ』。明るいスポーツ映画なのに、差別がまかり通る日本社会の矛盾がみえてきて、今春、大変な人気を集めた。

 グローバル企業として知られる韓国・サムスンの半導体工場で、66人の労働者ががんや白血病で死亡した問題を告発したホン・リギョン監督の『貪欲の帝国』、東京の地下鉄の売店で働く非正規の女性たちが低賃金に耐え切れずに立ち上がる姿を描いたビデオプレス『続・メトロレディーブルース』はいずれも初公開。前者では娘を失った父と妻を失った夫のことばが重い。後者では、組合を結成したもののいざ会社の前で抗議しようにも声が出ず、ドンドン地面を叩くシーンが圧巻だった。

 毎年思うのだが、レイバー映画祭で上映される映画は常に時代の先端を切りとっている観がある。知られざる現実を鏡のように映しとって、わたしたちにいま何が起きているか――問題を突きつけている。(木下昌明・『サンデー毎日』2014年7月27日号に掲載したものに加筆)

レイバー映画祭2014情報(7月26日・田町交通ビル6Fホール)


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