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書評『<いのち>を食う』〜3・11を機に、変わらなくてどうするんだ
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書評『<いのち>を食う〜3・11後の映画と現実』(木下昌明著)

3・11を機に、変わらなくてどうするんだ

                       堀切さとみ

『<いのち>を食う〜3・11後の映画と現実』(績文堂出版)を読みました。3・11後、多くの映像作品が世に出ました。木下さんは数ある3・11映画の中から、どんな視点で選んだのだろうかと思いながら読みました。

 本書で木下さんがとりあげているのは、次から次へと矢継ぎ早に公開された作品ではなく、戦後に作られた『ゴジラ』『原発切抜帖』『世界は恐怖する』などです。どれも未来を予見していて正鵠を得た映画の数々に驚かされます。特に『ゴジラ』のようなエンターテイメントが「核をもてあそんだ人類の愚かさ」を描いていたことを初めて知りました。

 もし多くの人がこれらの作品をみていたら、あるいはそこから本気で学ぼうとしていたら、原発政策は少しは変わっただろうか。否、所詮「映画は映画」なのだろうか。木下さんでさえ、かつてこれらを観たときは「眠くなってしまった」り「観念的だ」と思った作品もあったと書いています。福島原発事故があって自分たちが当事者になって、ようやく過去の映画が現在の自分たちに多くを気付かせるものなのだと思います。事故から三年経った日本の現状をみると、事故の前に既に作られた記録映画が「これから何が起こるか」を語りつくしているように思えます。

 そんな中、3・11後につくられた作品で、木下さんが唯一取り上げたのが『ネットワークでつくる放射能汚染地図』。「NHKが総力を挙げて取り組んだのではなく、在野の人々の手づくり」の番組です。長く放射能問題を取材し続け圧力を受けた七沢潔ディレクターと、「初動調査の重要性」を熟知している木村真三氏がチームを組んだ。3・11という現実を前に「調査をやめろ」と言うのがNHKなら、今真実を伝えなくてどうするんだと頑張るのもNHKなのです。3・11を機に、変わらなくてどうするんだという人たちは、会社や研究職を追われることも辞さない。

 ドキュメンタリー映画の素晴しさは、単に「言い当てること」や「原子力政策の愚かさ」を知識として伝えることにあるだけではなく、それを伝えようとする人たちの葛藤や闘いが伝わるところにある・・それを木下さんは伝えていると思います。社会を変えるというのはとてつもない大きなことで、自分に何ができるのか考えたら途方に暮れてしまう。おそらくは敗北の連続。でもそのプロセスを追うことは意味がある。負けたから意味がないのではない。それらを記録するのは、プロの映画監督やマスコミだけではなく、誰でもやることができる。

 本書では特に木村真三氏が、糊口をしのぐために塗装工をしていた経験が除染作業に生かされたことが紹介されていて、木下さんがレイバーネットTVで『ある精肉店のはなし』には労働が描かれていると評価していたことを思い出しました。    私は木下さんと「三分ビデオ講座」でお会いし、超過労働で深夜になっても帰らない家族にカメラを向けた『娘の時間』という3分作品を観ました。深い愛情にあふれた作品をみて、頑張っている人を見守り、記録することは素晴しいことだと思いました。

 『<いのち>を食う』には、そんな木下さんのいくつかの映像作品を収めたDVDもついていて、どれも本当にすてきでした。家族、自分、それらがすべて社会を感じさせるものでした。そして脱原発運動に至っては「かつてなかったことだ」と官邸前デモに出かけ「新米記者」の気分で集まる人たちの声を撮影し編集したという。それがどれほど楽しいことか・・・。こういう楽しみでもなきゃあ、3・11以降やってられなかったなーと私も 思います。    『いのちを楽しむ』の映評は胸に迫りました。木下さん自身がガンを宣告され「当事者」として映画を観ることになったからです。当事者になる前と後で見方が変わるのは原発映画もそうですが、これは重い。「ガンへの考え方の違いは、個性の違いもあるかと思われるが、かなり担当医師の考えが投影しているようにもみえる」との記述は、木下さん自身がいくつかの病院をまわったことから実感されたのだと思いますが、それを三分ビデオ『育てる』という作品にしてしまうのだからすごいです。

 私が一番好きなのは『アンジェリーナ・ジョリー異論』です。そうはいってもスッキリ割り切れるものではないのでしょうが、いざ自分が当事者になった時は、この一文を思い起こすと思います。

 未来を予見した社会派映画のすごさを論じる一方で、「自分の未来はわからなくていい」という。社会の在り様に翻弄されながら、誰も代わることのできない自分をどう生きるか。それだけは最後まで自由なのだと、この本を読んで感じました。

*『<いのち>を食う〜3.11後の映画と現実』取扱中(1800円・送料 税サービス)。お申し込みはメールで。

*レイバーネットTV第71号、6月11日放送で「特集 : 3.11以後の映画と現実」があります。番組案内

績文堂出版HP


Created by staff01. Last modified on 2014-06-08 15:12:13 Copyright: Default

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