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松本昌次のいま、言わねばならないこと(第13回)〜春の嵐のなかで
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第13回 2014.4.1 松本昌次(編集者・影書房)

 春の嵐のなかで

 ロクでもない、ムカッ腹の立つニュースばかりが満載の今日この頃、3月27日、静岡地裁(村山浩昭裁判長)での袴田巌さんにたいする再審開始・死刑執行停止、そして即日釈放の判決には、ああ、春が来たという思いとともに、胸が熱くなった。1966年、一家4人殺害・放火の犯人として逮捕され、1日12時間余に及ぶ拷問にも等しい取調べで自白に追いこまれた(これでどれだけの人が無実の罪を着させられたか)が、袴田さんは法廷で一貫して無実を主張しつづけた。そして48年。この間、たび重なる控訴・上告・再審請求を、7人の裁判官がすべて棄却してきたのである。テレビで、そのなかの一人が、病み衰えた声で泣きながら、どうしても上からの圧力に抵抗できなかったと詫びる場面があった。

 それにしても、村山浩昭裁判長の判決は、見事であった。死刑制度をいまなお固持し(欧州をはじめ廃止が世界の大勢にも拘らず)、戦前なみの不当・強引な捜査・逮捕・拘束、そして度重なる冤罪事件を重ねる現状に、限りない不信の念を抱く者にとって、まさにそれは暗夜に一灯の思いであった。村山裁判長は、捜査当局による証拠品は捏造された疑いがあると指摘し、そうである以上、「拘置を続けることは耐え難いほど正義に反する」と断じたのである。遅きに失したとはいえ、まことに勇気ある発言であり、いったい誰が、こんな耐え難いほど正義に反することを重ねてきたのか検証しなければならない。しかし一方で、メンツにこだわる検察側は即時抗告の構えをみせているという。情けない話だ。

 情けないといえば、これまでに死刑を宣告された人を何人も死刑台に送った谷垣禎一法相は、裁判所の判断への発言を控えつつ、袴田さんに対し、48年ぶりの釈放による環境の激変を、周囲の人たちの心遣いとともに乗り越えてほしいといったような発言をしたという。いかにもいたわりの言葉のようだが、司法のトップがこんなことしか言えないのか。なんのための法務大臣なのか。もはや検察側の即時抗告はやめて、再審を開始しなさいとすら言えない大臣とは、いかなる存在なのだろう。死刑に執行の印鑑を押すように、なんの意見もいわず、ただひたすら、提出された書類に印鑑を押すのが仕事じゃあるまい。

 ところで、ロクでもない、ムカッ腹の立つことといえば、袴田さん釈放のニュースに湧いた当日、みんなの党の渡辺喜美代表が、化粧品会社の会長から計8億円を借りたことについて記者会見したことである。8億は選挙資金ではない、個人的借用だ(貸主は選挙資金だと言っているのに)と言いはり、何にそんな大金を使ったのかと記者から問いつめられると、酉の市で「熊手」なんか買ったと、水を飲み飲み渡辺代表は応じたというのだから、笑うに笑えない話である。猪瀬直樹前東京都知事は、ケタが違うが5千万円の借金を、同じく個人的借用と、汗を拭き拭き嘘八百を並べたてたが力及ばず、ついに辞職に追いこまれ、略式起訴で罰金50万円で手打ち。司法は、なんと政治家に甘いのか。さて、渡辺代表にはどんな幕引きが待っているのか。

 今回のコラムははじめは、政府自民党が籾井勝人会長を押したて、周辺を固め、NHKを自分たちで牛耳ろうとする一番ムカッ腹の立つ動向に対し、NHK内部の職員の皆さんの奮起を促すつもりであった。――「NHKの職員の皆さん、本当にこのままでいいのですか。いま、NHKは重大な岐路に立っているのです。戦争中、大本営発表のいいなりに放送を流し、どれだけの人が戦争に捲きこまれ死んだでしょうか。安倍大本営のいいなりになることは、またふたたびの道を歩くことです。それでもなお皆さんは沈黙をしつづけるのですか」と。これはまたいずれ。

*写真=ブログ「冤罪File」より

 


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