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木下昌明の映画批評『60万回のトライ』〜ラグビーに託す反差別の思い
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●朴思柔・朴敦史監督『60万回のトライ』

胸に響く「ノーサイドの精神」―ラグビーに託す反差別の思い

久しぶりにさわやかなスポーツ映画をみた。朴思柔(パクサユ)・朴敦史(パクトンサ)監督のドキュメンタリー『60万回のトライ』がそれだ。

舞台は東大阪の花園ラグビー場に近い大阪朝鮮高級学校(大阪朝高)で、登場人物はラグビー部の先生と生徒たち。このチームは2010年、全国大会でペスト4になり、その名を知らしめた。そこで「みんなで日本一になろう」が夢となり、日々練習に励む。

映画は、韓国の放送局の海外リポーターだったパク・サユが、取材中にラグビー部の活躍を知り、乳がんを抱えながら、もう一人のパクの協力を得て撮り続けたという。

まず、彼らの“ムキムキマン”の肉体に圧倒される。円陣を組んで、「ハナ・ミドウン・スンリ(一つになる・信じる・勝つ)」の合言葉を叫んで大地を蹴るシーンがいい。チームは一丸だが、映画は一人ひとりの表情も豊かにとらえている。特に主将のガンテが右ひざを大けがしたり、エースのユインが脳震盪で倒れたり、ひょうきん者のサンヒョンがガンテの代役で緊張するシーンなど、アクシデントの中にも熱い友情がとらえられていた。

なぜラグビーに熱中するのか? そこに在日朝鮮人の苦難の歴史があった。戦後、日本にとどまった60万人が、かつて日本の植民地支配によって廃止された民族の言葉を取り戻そうと、各地に国語講習所を設けたのが朝鮮学校のはじまりという。それが大阪朝高の創立(1952年)となったが、現在の生徒数346人のうち韓国籍6割、朝鮮籍4割、日本籍若干名と複雑だ。

2010年に民主党政権が高校授業料の無償化を実施したが、朝鮮高校は除外され、市の補助金も打ち切られた。アジアで政治的緊張が高まる度に、時の政治家が意図的に差別の対象にする。こうした、いわれのない差別を覆すのが、彼らにとってラグビーだった。勝利を収め、その存在を世に知らしめること――。

無償化要求の記者会見で、「試合中はそれぞれのサイドに別れて闘うが、終われば仲よく交流します」というガンテの訴える「ノーサイドの精神」が胸を打つ。(木下昌明・『サンデー毎日』2014年3月23日号)

*3月15日よりオーディトリウム渋谷にてロードショー。以下、全国順次公開。

〔追記〕 この映画は、韓国全州国際映画祭にノミネートされたそうです。

写真=(c)コマプレス


Created by staff01. Last modified on 2014-03-14 15:28:52 Copyright: Default

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