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木下昌明の映画批評『ホームレス理事長』
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●土方宏史監督『ホームレス理事長』
“落ちこぼれ高校球児”の再生計画―「一発逆転」はあるか!?

 ドキュメンタリーの面白さの一つは先が読めないことだ。土方宏史監督の「ホームレス理事長」は、どんな展開になるのか全く読めなかった。

 映画の舞台は愛知県常滑市。2010年、山田豪(44歳)がNPO法人「ルーキーズ」を立ち上げ、理事長となる。その創設時の就任挨拶から、映画は始まる。組織の目的は,副題にある「退学球児再生計画」。全国の高校球児の落ちこぼれを、もう一度野球を介して再生させることにある。

 映画によると、09年の野球部に入部者6万1201人のうち、中途退部者が9218人もいるという。彼らは甲子園やプロ野球を夢みながら挫折したことで将来の目標を失い、引きこもりになっている。その彼らに再チャレンジの場を与えようというものだ。

 ところが生徒数は足りず、前年度は1300万円の赤字で、スタッフに給料は払えても理事長は無給。そこで彼は「今日は百軒回るぞ」と、金策に奔走する。その後をカメラは追いかけていく……。

 一方、廃校のグラウンドで練習に余念のない少年たちも撮り続ける。が、地域の試合は大差で負けてばかり。指導にあたる監督は、沖縄を40年ぶりに甲子園に導いた池村英樹(42歳)。彼が一人の少年に何発もビンタをくらわすシーンがある。テレビで短縮版が放映された時、これが物議をかもした。しかし監督と少年のやりとりを見ていると、教育の難しさを痛感させられる。少年はいじめられっ子ながらしたたかで、涙にくれながらも、ああいえばこういう式で一筋縄ではいかないのだ。

 また、理事長といえば、電気もガスも止められたアパートで、夕食用のバナナを食べながら、大人も一緒に泥まみれになって這い上がっていく「ルーキーズ魂」を熱く語る。その目が暗闇に光っている。池村英樹監督は理事長について「愛されるアホ」という。ドン・キホーテのようだ。

 その後、彼はアパートを追い出され、ネットカフェで寝泊まりするようになる。金策もつき、ついに撮影クルーに向かって「助けてください」と土下座する始末。えっ、そんなことあり?

 はたして少年たちとともに這い上がる“一発逆転”はあるのか?

(木下昌明・『サンデー毎日』2014年2月16日号所収)

*2月15日より東京・ポレポレ東中野ほか全国順次公開。

〔追記〕この映画は、大人も子どもも“落ちこぼれ”人生を這いずりながら、それでも再チャレンジしていく姿をとらえています。それがどこか喜劇的でもあるのですが、それでいて、これが人生なんだと思えてきて画面にひきつけられます。この映画は『青空どろぼう』や『約束』などの東海テレビの作品です。

 写真=(c)東海テレビ放送


Created by staff01. Last modified on 2014-02-17 11:59:56 Copyright: Default

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