人権と報道連絡会定例会 : 取り調べの全面可視化が冤罪をなくす | |||||||
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1月10日、「取り調べ可視化の現在」と題した講演会が、東京・水道橋の「スペースたんぽぽ」であった。人権と報道・連絡会が定例会として主催した。 あろうことか検察官が証拠を捏造し、虚偽自白を強要した「郵便不正事件・不正捜査」。これを契機に設置された法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」は昨年11月、5か月ぶりに議論を再開した。ところがこの議論は、可視化の実現とは程遠いだけではなく、「新捜査手法」と称した「通信傍受(盗聴)の範囲拡大」まで盛り込まれるとんでもない内容になっている。 冬本番を迎えた学生街の夜。集まった参加者は、前田裕司弁護士(日弁連・取調べ可視化実現本部・副本部長/写真)の話に熱心に耳を傾けた。 前田さんはまず過去の数々の冤罪事件を振り返り、日本の冤罪の特長として「虚偽自白」が圧倒的に多いことを指摘した。 その第一の原因として挙げられるのが密室での取り調べだ。前述の「不正事件」では、逮捕された厚労省係長が勾留中に記録していた「被疑者ノート」が法廷で採用され、村木厚子事務次官の無罪獲得につながった。日弁連が可視化を求めるもう一つの理由が、全過程の録画があれば、裁判では自白の信用性すなわち供述調書の証拠能力をめぐる、無駄な争いが避けられること。これは本来、裁判所だけでなく、捜査陣にとっても有罪への有利な条件となるはずだ。 ところが、再開された部会は、可視化に対するさまざまな「例外規定」を設け、これまでのやり方を維持する「骨抜き案」を併記している。その例として、「記録する機器が故障したとき」に始まり、「容疑者が記録を拒んだとき」、「関係者の名誉を著しく害する恐れのあるとき」など、密室での取調官のやりたい放題を許す、極めていいかげんな条文なのだ。 そのうえ、前記案はいずれも裁判員裁判に限定して適用する。裁判員が裁くのは、刑事事件全体の2−3%に過ぎない凶悪事件だけであり、それ以外の刑事事件については可視化の対象にならない。これでは進歩にはならない。 「可視化すれば、被疑者との信頼関係が崩れる」――捜査当局はもっともらしい理屈をつけて、頑強に反対してきた。そのため、自分たちに都合にいい部分だけを記録する「一部可視化」を持ちだして抵抗を続けている。 「一部可視化はむしろ有害。そもそも、権力者と一般市民の信頼関係などできるわけがない」と前田さんは釘をさす。警察は被疑者から自白を取るためなら、何でもやる。あらゆるウソやペテン、脅迫や恫喝を駆使する、百戦錬磨のプロフェッショナル集団である。取り調べられる者は孤立無援の絶望のなかで、少しでも楽になりたいと追い込まれ、警察のワナにはまっていく。これこそが今昔で変わらない虚偽自白=冤罪成立の基本的な構図だ。 日弁連はあくまで、取り調べの全過程を記録する「全面可視化」を主張するが、それは当然にも前述の「骨抜き案」とは大きく隔たる。このまま平行線の議論が続けば、可視化はおろか「盗聴の自由化」すら導入されかねない。 質疑応答では、「例外案は論外だが、当面は取り調べの全過程ではなく、何割かの記録を義務づけ、それを段階的に拡大していったらどうか」という考え方や、「可視化よりも代用監獄と呼ばれる警察の長期勾留を、まず止めさせるべきだ」との意見。 また、「大きな事件だけではなく、警察は日常的に先端技術を使い、証拠のねつ造などを繰り返している。当事者みずから録音や録画をする権利を得ることも重要ではないか」等の発言があった。 連絡会世話人でジャーナリストの山口正紀さんは、「法制審の部会メンバーには、検察・警察の人間が多数入っている。審議会の人選は官僚が恣意的に選ぶ。このやりかたを認めないという主張も大切では」と提起した。 イギリスやアメリカなど諸外国ではすでに、取り調べの録画・録音を義務づける改革が導入されている。日弁連は、容疑者だけでなく参考人への聞き取りも可視化すべきであり、その裏付けのない供述調書は、証拠として認めないという立場を鮮明に打ち出している。冤罪の多発は、密室における警察・検察主導の取り調べ、自白重視の捜査という極めて日本的な慣習に根ざしている。 安倍政権の誕生と特定秘密保護法の成立で、警察・検察が今まで以上に勢いづくことは明らかだ。戦前・戦中の暗黒社会の再来を許してはならない。 すべての事件において、すべての取り調べ過程の録音・録画を義務づける制度を実現すること。その世論を盛り上げることこそ、恐ろしい冤罪を根絶する第一歩になる。そう確信した集会だった。(Y) Created by staff01. Last modified on 2014-01-13 19:15:31 Copyright: Default |