木下昌明の映画批評『ある精肉店のはなし』 | |||||||
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●纐纈あや監督『ある精肉店のはなし』 労働の輝き放つ“ごっつい手”――日本の原風景伝える精肉店纐纈(はなぶさ)あや監督の前作『祝(ほうり)の島』は、原発建設に反対する山口県の祝島(いわいしま)漁民の日々を描いたドキュメンタリーだった。そこでは自然と生きる営みの大切さが掘り起こされていた。城壁のように営々と築き上げた棚田の石垣シーンには「耕シテ天二至ル」狭い日本の風土の象徴をみて感嘆した。 纐纈監督の今作『ある精肉店のはなし』は、大阪の貝塚市にある小さな精肉店を舞台に、家族で牛を育て、屠畜し、販売するまでの労働を生き生きと描いているドキュメンタリーだ。そこでも被差別部落の歴史の一面がとらえられているが、それも暮らしの体験のな かに描かれていた。 映画は、その一家、北出家で飼っていた一頭を屠畜するところからはじまる。牛の皮を剥ぎ、内臓を取り出し、電動ノコで二つに切断する、その枝肉を1週間寝かせるということは知らなかった。 映画の中で、牛は2度解体されるが、さまざまなナイフさばきの鮮やかなこと。まるで彫刻家のようだ。内臓の加工作業をみていると、あれを食べたいこれを食べたいと不思議にも食欲がわいてくる。 北出家は、江戸時代から続く7代目。長男夫婦と長女、次男の50代、60代の4人が家業を担っている。カメラは、労働する人間の魅力を、彼らの“ごっつい手”の動きから引き出している。これが実にいい。 長男は語る。「差別社会を変えるということは大変やけど、それより自分らの生き方の姿勢が変わってきた。これが解放運動なわけよ」と。 皮をなめし、太鼓作りなどを学校でも教えている次男は「人間はいろんな生き物に支えられて生きている、そういう考えをちょっとでもいいから伝えたい」と語る。 87歳の老母を含む4世代家族の団欒からは大家族のよさが伝わり、ここから日本の原風景がみえてくる。 祭りがあり結婚式があり、そして屠畜場の閉鎖もあって、四季の移り変わりの中に時代の変化もとらえられている。さわやかな一本だ。(『サンデー毎日』2013年12月8日号) *11月29日より東京・ポレポレ東中野、12月7日より大阪・第七藝術劇場で公開。 Created by staff01. Last modified on 2013-12-02 08:26:41 Copyright: Default |