●想田和弘監督『選挙2』
地方選候補が見た“ドブ板選挙”――「選挙の季節」に一見の価値あり
選挙の季節がやってきた。都議選に続いて参院選がはじまる。これに合わせて選挙の映画が公開される。
2005年、神奈川県川崎市議会議員の補欠選挙で自民党から出馬したコイン商経営、山内和彦(40)が当選した。その選挙戦に大学の同級生だった想田和弘が密着撮影し、『選挙』という映画を作った。
政治に素人だった山内は、党のベテラン勢に握手の仕方や名前の連呼の仕方などを徹底的に仕込まれる。そのうえ、政治とは無関係に見える神社の神輿担ぎまでさせられ、“ドブ板選挙”のありようを教わる。観客は、選挙戦が個人の力ではなく、代々続く地元有力支持者の組織力に拠っていることを目のあたりにする。映画は07年に公開されるや、自民党選挙を内側から描いたとして反響をよんだ。
その想田が今度は『選挙2』を作った。山内が5年後、再び同じ選挙区の市議選に(子連れで)挑戦したからだ。前回と違うのは、自民党と決別した山内が「3・11」直後とあって脱原発を柱に“カネなし、組織なし、事務所なし”の完全無所属として立候補していることだ。今回も想田は「観察映画」をつくるつもりで「観察者」として振る舞うものの、前作に登場した自民党市議らに文句を言われて言い争ったりと、観察者ではいられなくなる。そこが面白い。
また2作とも、早朝から候補者たちが通勤中の市民に向かって「おはようございます。いってらっしゃいませ」と、ひたすら挨拶する異様な光景を見せつけられる。一人の候補者は、カメラの前で、こういう言葉しか言えないのは「非常に不本意」と公職選挙法に憤懣をぶつけてきた。選挙のための活動に制限を設けている現行制度に問題があると。このため、組織力に勝る既成の大政党は、政策を主張せずとも選挙を有利に戦える。
2本の映画は、前編後編のように地域や人物も重なっていて、山内の変貌ぶりとともに、日本の貧寒な選挙風景とそのあり方を問うていて考えさせられる。(『サンデー毎日』 2013年7月7日号)
* 『選挙』は6月29日〜7月5日、『選挙2』は7月6日より渋谷・シアター・イメージフオーラムほか全国順次公開。
〔追記〕山内は一人で清く正しくカネをかけずに戦ってきた。しかし無惨にも敗北する。なぜか――参院選を戦うものも考えてほしい。
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Last modified on 2013-07-02 12:32:04
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