松本昌次さんの「いま、言わねばならないこと」、2回目の「『花は咲く』異
論」は、核心をグサッと突き、腐りきった臓腑をえぐり出すような鋭さに満ちて
いる。
あの「花は咲く」については私も何だか胡散臭い歌だなぁとは思っていたが、
その理由をはっきり言葉にできないでいた。
それを松本さんは、「被害者たちを個人の『体験』にのみ、明るい希望にのみ
とどまらせようとしているとしか思えない」と喝破し、「戦争中からこれまで、
いったいどれだけ死者とともにわたしたちは、“希望の涙”に誤魔化されてきたこ
とか」と続ける。
私はもう、机をバンバン叩いて「そのとおりだ〜」と叫びたい気分だ。
「海ゆかば」の裏返しだという指摘は、わかりにくい幾何の問題が補助線1本
引くことによって明解なものになるのに似て、「花は咲く」の胡散臭さに見事な
補助線を引いてくれた。
そういえばJR福知山線脱線事故のときも今度の震災のときも、NHKはやたらに
個人のみを追い、Aさんはこんな希望を持っていたのに、Bさんはあんな目標を抱
いていたのに‥‥と悲劇の主人公に仕立てていた。
亡くなった100人には100通りの人生があり、2万人には2万通りの人生があった
のはいわば当たり前であって、その一人ひとりをいくら「可哀想な人」に仕立て
ても、問題の本質は何も解決しない。
JRの本質、東電や政府の本質を隠すためのベールとして個人的美談や希望の歌
が使われるという事実を、松本さんの「いま、言わねばならないこと」は見事に
看破してくれたのだ。(正木俊行)
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Last modified on 2013-04-30 23:00:03
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