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LNJ Logo 木下昌明の映画批評『モンサントの不自然な食べもの』
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●マリー=モニク・ロバン監督『モンサントの不自然な食べもの』
世界の食卓に一石投じる力作―巨大バイオ企業が牛耳る「食」

 マクドナルドのハンバーガーを食べ続けるとどうなるかを実験した『スーパーサイズ・ミー』以来、『ありあまるごちそう』『フード・インク』など「食」に関するドキュメンタリーが多く作られた。いずれの作品も多国籍企業によって生産された食べ物が世界中に広がっている実態に目を向けている。それは人々の食生活が様変わりするとともに、食自体の安全性が問われるようになったからだ。

 フランスの女性ジャーナリスト、マリー=モニク・ロバンが監督した『モンサントの不自然な食べもの』は、多国籍企業がもたらす食のあり方の根本を問う一本だ。

 彼女は米国を本拠地とする巨大企業「モンサント社」を相手取り、最大の武器としてインターネットを駆使する。企業の歴史や事件などを検索し、「これは」と思った問題にアクセスして確認のために現地に赴き、当事者の話を聞き、隠蔽(いんぺい)された実態に迫るという手法をとっている。取材で回った国は10カ国に上る。

 同社の主力商品「遺伝子組み換え作物(GM)」は、果たして安全な食べ物か。それにかかわった科学者や元政府高官にあたって検証していく。これによって、GM大豆がレーガン→ブッシュ政権下の規制緩和政策のなかで始まり、科学的根拠よりも「政治的判断」を優先させた経緯を明らかにする。

 同社はベトナム戦争で多くの奇形児を生んだ枯れ葉剤の製造で知られる化学薬品会社。それが、除草剤(ラウンドアップ)に耐性のある遺伝子組み換え大豆を発明したことで食品会社に転じた。これは原爆を原発に変えた発想とよく似ている。会社は政府にGM大豆の特許法を作らせ、タネと除草剤をセットで売り、従わない農家を、モンサントお抱えの探偵が次々と摘発し、全米の大豆の90%を占めるに至った。

 大豆農家の一人は言う――「彼らは世界中の食糧を支配しようとしている」と。

 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)を考える参考にもなる。

(木下昌明/『サンデー毎日』2012年9月2日号)

*9月1日より東京・渋谷アップリンクほか全国順次公開

〔付 記〕 衝撃的だったのは、GM作物を英国政府が輸入するにあたって、安全と太鼓判を押すために専門の研究所で科学的に調査させたシーン。調査にあたった遺伝子組み換え専門の研究者ブースタイ博士は、その結果をBBCのテレビインタビューで話した。ネズミで実験したGMじゃがいもが、ガンを誘発する可能性があるなど。その上で「国民をモルモットにするのか」と批判した。この発言によって博士は研究所を解雇され、30人の研究スタッフも解散させられた。第三機関によるGM作物の研究調査は、後にも先にもこの時だけだったという。また、博士の解雇の前に、同研究所の所長に、当時のブレア首相から二度電話があったという。

 なお、このドキュメントを裏付ける著作が日本でも刊行されている。ウィリアム・イングドールの『ロックフェラーの完全支配』(徳間書店)がそれだ。そこに英国でのいきさつがくわしく書かれている。イングドールによると、GMじゃがいもを与えられたネズミは、肝臓や心臓が小さく、免疫システムも弱くなっているばかりでなく、「際だって脳も小さくなっていた」という――しかし、この脳の萎縮については、テレビではパニックになるからと博士は話さなかったというのだ。

 さらに、ブレアが「ブースタイを黙らせろ!」と指令したのは、クリントン大統領からの電話をうけたからだとされる。

 こうしてGM作物の危険性はヤミからヤミへと葬られていった。ドキュメント『フードインク』では、モンサントのケースを挙げ、クリントン政府の官僚などの名前を上げて「政府が管理すべき企業に逆に管理されている」と批判している。

わたしたちは、知らず知らずのうちにGM作物を食べさせられている。どの程度危険なのかわからないままに。日本のコメもTPPによって、そう遠くない日にGM米に取って代わられるのではないか――。


Created by staff01. Last modified on 2012-08-27 11:16:05 Copyright: Default

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