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月刊「ヒューマンライツ」でレイバーネットTV紹介記事
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*月刊「ヒューマンライツ」5月号から転載

労働者の、労働者による、労働者のためのメディア    「レイバーネットTV」(東京)

                小山帥人

 電波を映像に乗せて伝搬することは難しい事業だ、いや、難しかったと過去形で述べるべきだろう。本格的なテレビ放送局は莫大な設備投資が必要だが、インターネットを使った映像と音声の発信なら、誰にでも可能な時代になったからだ。

 とはいえ、映像を定期的に発信するのは簡単な作業ではない。収益事業としては難しいから、志を持つボランティア活動家、しかも一定の技術を持つ人々を集めなければならない。「レイバーネットTV」は、インターネットを使って労働運動を進める「レイバーネット」のメンバーによって2010年5月に始められた。放送のスタイルは、キャスターを置き、生放送を中心にしたワイドニュース的な形式をとっている。

 キャスターを務めるジャーナリストの松元ちえによると、初めはラジオをやってみたかったという。3カ国語の放送にして海外のネットラジオとつなげようと考えた。レイバーネット共同代表の松原明は、若い世代を惹きつけるためには映像を発信する方がいいと考え、当時登場したばかりの日本語版の「ユーストリーム」を使ってのテレビを提案した。

 スタートしてからまもなく2年になるが、松元ちえ、映画監督の土屋トカチ、両キャスターが番組を進行させる形は変わっていない。まず「ニュースダイジェスト」のコーナーがあり、労働問題や沖縄の基地をめぐる動きなどが伝えられる。スタート時点では若い労働者がベテラン幹部に素朴な質問をぶつける「教えておじさん!」というユニークなコーナーもあった。映画評論家の木下昌明による、労働や人権をテーマにした映画を紹介するコーナー「今月の1本」は今も続いている。このほか、川柳や歌のコーナー、ジャーナリストの山口正紀による「ピリ辛コラム」など、バラエティに富んでいる。

 わたしは第1回目の生中継を鑑賞したが、音が聞こえなかったり、切り替えがスムースにいかなかったり、カメラの前を人が横切るなど、ハラハラさせられた。もっとも、回を重ねるにつれて安定し、今年の4月で30回を越えた。機材もよくなり、随分見やすくなった。なにより自前の映像メディアによって表現しようというスタッフの意欲が感じられるのがいい。

 松元キャスターは番組の冒頭、「労働者の、労働者による、労働者のためのメディア」と告げる。松元は「とにかく楽しい。一番伝えたいことを伝えることができる。広告主に遠慮するメディアがだめなのは原発報道でもはっきりした」という。土屋は「ツイッターのメッセージを伝えるなど、視聴者との結びつき」を目指している。

 最初の1年間は月に1回のペースで放送していたが、福島の原発事故以来、「特集・子どもを放射能から守れ」、「被ばく労働で死にたくない」など、原発特集が増え、放送は月に2回のペースになった。事故1周年の3月11日には、各地からの中継を入れこむスタイルをとり、オーストラリアやアメリカ、フランスなどをつなぐ長時間放送に取り組んだ。わたしも大阪の「さよなら原発集会」の模様を中継してくれと頼まれて、携帯スカイプを使って中之島公会堂周辺のデモの様子を5分ばかり中継放送してみた。結果的にはモニター画面がないため、打ち合わせのつもりがオンエアーされてしまうなど、満足のいく画面にならなかったが、生放送で地方をつなぐという点ではいい経験になった。スタジオをメインにして、各地から生の映像が入ると、構成が立体的になり、面白くなる。

 松原代表は視聴者を増やしたいと思っている。現在、生放送を見ているのはせいぜい数百人と多くないが、アーカイブで番組を見る人はその10倍くらいいる。

 松元は「労働問題だけを扱うのではなく、社会問題に広げたい。大手メディアにとりあげられないものを放送していきたい。本当は毎日でも放送したいくらいだ」という。楽しみながら続けてほしい。(敬称略)

(こやま・おさひと ジャーナリスト)


Created by staff01. Last modified on 2012-06-13 19:29:14 Copyright: Default

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