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書評 : チェルノブイリ被害調査をまとめた『放射能汚染が未来世代に及ぼすもの』
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福島原発事故以後、低線量被曝問題が問われている。チェルノブイリの経験は何を語っているだろうか。3月に出版された綿貫礼子・編『放射能汚染が未来世代に及ぼすもの』(新評論)を読んで驚いたのは、チェルノブイリ事故(1986年)以後、ウクライナで被爆した人の子どもで慢性疾患のある子どもの割合は1992年には21・1パーセントだったが、2008年には78・2パーセントに増加したと書かれていたことだ。特に神経、精神、内分泌、胃腸、呼吸器、心臓、循環器系の病気が増え、子どもたちの健康状態は悪化の一途をたどっているという。放射線の影響は発がんや催奇形性だけでなく身体全体に及んでいることがわかる。

直接被曝体験のないポスト・チェルノブイリ世代になぜこうしたことが起こるのか。編者は、放射線の内部被曝で生殖の健康が損なわれた女性が妊娠すると、胎児は子宮内に蓄積しているセシウムによって被曝し病気にかかりやすい体質になると説明している。水俣(水銀)、ベトナム(ダイオキシン)と同じように母から子へと被曝の連鎖はつながっていく。

本書は、チェルノブイリ事故後、25年にわたる現地の被害調査をもとにまとめられた。編者のサイエンス・ライター綿貫礼子さんは、出版を目前に控えた1月30日、83歳で亡くなった。彼女は本書の最後に「3・11が私たちに突きつけたものは、科学・技術・政治・倫理、さらには人類の文明にまで行きつくような現代世界を形づくっている大きな枠組のパラダイム転換にほかならない。原発の存在を許容してきた私たち世代は、何より健康リスクを未来世代に及ぼさない新たな世界を創り上げねばならない」と書いている。3・11以後を生きる私たちにとって必須の文献である。(佐々木有美)


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