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木下昌明の映画批評『RAILWAYS――愛を伝えられない大人たちへ』
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●映画『RAILWAYS――愛を伝えられない大人たちへ』
目を見張る日本の原風景―定年間近の夫婦の“絆”を問う

 海外で暮らした人から、日本の自然は美しいとよく聞かされる。が、フクシマ以降の日本をみると、そのように言えなくなったのではないかと思い始めた時、蔵方政俊監督『RAILWAYS(レイルウエイズ)――愛を伝えられない大人たちへ』を見て、いや、まだ美しい自然はあると思い直した。それは2両編成の電車が鉄橋を渡っていく冒頭のシーン。背景には壮大な立山連峰があり、手前には田園風景が広がっている。そこには目を見張るような日本の風土があった。

 映画は、富山県のローカル線で働く運転士の夫59歳とその妻55歳の物語。夫はあと1カ月で定年を迎える「無事故無違反」の実直な鉄道マン。妻は専業主婦だったが、一人娘は結婚し、出産も間近。そこで夫の定年を機に、看護師の仕事を再開しようと決意し、二人で旅行などして余生をすごそうと考えていた夫と対立する。妻は家を飛び出し、一度は帰ってくるものの今度は結婚指輪と離婚届まで渡していく。このすれ違う夫婦の感情の機微を三浦友和と余貴美子が好演している。

 地方鉄道なのに色とりどりの車両が走り、市内では路面電車まで走っている電車のシーンが新鮮だった。

 車社会になり、ローカル線は廃線に追いこまれレールがはぎとられた廃屋の駅をよくみかける。鉄道のない地方の町はさびれる一方だ。他方、同じローカル線でもJR福知山線のように1日93本、時速60キロで走っていたものが、民営化で「稼ぐ」を第一目標に369本、130キロで走るまでに効率を求めた結果、大事故を起こしたケースもある。それが映画の富山では、新人運転士に「安全第一」の教育をしているのだ。その光景にうれしくなった。

 映画は、ある時夫が妻の働く姿を目撃する。彼は退職を迎え、意を決して離婚届を出し、高台の公園から二人の指輪を放り捨てるのである。愛するとはどういうことか――定年間近の人々には必見かも。(木下昌明/『サンデー毎日』2011年11月20日号)

*11月19日より富山先行公開。12月3日より松竹系全国ロードショー (c)2011「RAILWAYS」製作委員会

[付 記] この映画の底辺にあるのは“労働”である。老いることと働くこととの関係を声高でなく問うているところにわたしはひかれた。


Created by staff01. Last modified on 2011-11-21 16:17:12 Copyright: Default

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