●イタリア映画『ゴモラ』
暗躍する犯罪組織――暴かれる“南北格差”
イタリアの犯罪組織といえば、シチリアのマフィアが有名だが、それと並んで知られているのがナポリを拠点にした「カモッラ」である。
マッテオ・ガッローネ監督の『ゴモラ』は、現在のカモッラが絡むさまざまな犯罪の実相にせまった劇映画であるが、イタリア人がイタリア社会の恥部を暴いている点では一種のドキュメンタリーともいえる。タイトルの「ゴモラ」とは、旧約聖書で神が滅ぼしたとされる悪徳の都市「ソドムとゴモラ」に由来する。そのゴモラを思わせるのが「帆船」と呼ばれた巨大な集合住宅群。組織が牛耳っているが、すでに廃虚と化したその異様な建物に圧倒される。
組織のメンバーに給料を渡すドン・チーロや雑貨品配達の少年トトなど多彩な人物が登場するが、彼らが繰り広げる暴力沙汰を通して浮かび上がるのは、個人ではなく組織のドラマだ。それも一人の首領が仕切るのではなく、分裂へ抗争しながらガレキの山のように形づくられたいくつもの組織の集合体だとわかる。ここでの人間関係はすべてカネずくで、紙幣を数えるシーンがなんと多いことか。
イタリアの資本主義は北のミラノを中心に工業によって栄えたが、ナポリから南は北部に利用されたという歴史的に偏頗(へんぱ)な経緯がある。その結果、南部は貧しく裏社会が支配するようになった。映画では、北の有毒な産業廃棄物を南の巨大な採石場の跡地に埋めるシーンや、「北で一人を生かすために南では一家を殺している」という青年の怒りに、いびつな社会に対する批判がよく表れている。
かつて南部問題に焦点をあてたネオレアリスモの監督にフランチェスコ・ロージがいたが、同じナポリ出身のガッローネのこの映画は、その流れをくむ傑作といえる。
なお、原作者で脚本担当の一人でもあるロベルト・サヴィアーノは命を狙われ、警察が保護している。(木下昌明/『サンデー毎日』2011年11月6日号)
*『ゴモラ』は10月29日より東京・渋谷シアター・イメージフォーラム他、全国順次公開。
[付 記] これはよその国の問題ではない。フクシマ以後、日本もいっそうイタリア化していくことは目に見えている。災害を利用して資本主義経済は繁栄する時代となった。
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Last modified on 2011-10-28 21:47:22
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