松元ちえの取材報告〜電力総連内田事務局長に原発事故を聞く | |
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●取材レポート 松元ちえ(レイバーネット 写真) 会社とは「対立しない」で「協力」する――東京電力労働組合を傘下にもつ全国電力関連産業労働組合総連合(電力総連)の基本理念は、経営参画と労使協調。会社と電力総連は、繁栄するも衰退するも、昇天するも地獄へ堕ちるも、ともにする運命共同体だった。 230単組、約22万人の組合員のうち、半数ほどが日本の電気会社に勤務する電力総連の労働協約には、「労使協力をして電気事業の発展のために協力する」とある。「労働組合というのは(会社との)対立構造のひとつに使われ、どこかを攻撃することの題材として使われるが、それは我々の意とするところと違う」と電力総連の内田厚事務局長は語る。 4月末、電力総連は、映像や画像(写真)媒体としてレイバーネットTVの取材を拒否したが、あらためて活字メディアであるレイバーネットとのインタビューに応じた。
「会社と労働組合が対立していたら電気事業の発展につながらない」と内田氏が強調するように、電力会社はめまぐるしい発展を遂げ、この小さい島国に54基もの原子力発電所を建設してきた。一方で、電力会社の労働者をユニオンショップ協定により組織してきた電力総連の基本理念は、企業と一心同体の労働者を作り上げてきた。 震災後、避難所から福島第一原発までを往復していた東京電力(東電)の社員は、「こんな事態になっても自分の会社。知らないふりはできない。自分にも責任はある」といって大きな余震のあった夜にまた原発へと戻っていった。 彼のような労働者が、日々平均400人から500人ほど東電が基地とするJヴィレッジに結集し、そこから免震重要棟やタービン建屋へと出向く。 職務意識の高い電力会社社員 放射性物質の放出を防ぐために線量の高い現場へと出動するそんな労働者を、海外メディアは「カミカゼ(特攻隊)」と呼んだ。「今は国の危機。自分が救わなければと思うから、志願して(原発へ)行く・・・」着の身着のままで避難してきた原発被害者にそう言わせる理念や風潮が地元でも作られてきた。 それが電力会社の社員の心得だ、と電力総連事務局長は語気を強める。通常より線量が高い職場で作業するのは、組合員が不安に感じているのではないか、という問いも即否定。 社員の意識は「放射線管理下へ行きたくない、なんていう程度ではない」(内田氏)。前も見えないほどの真っ暗闇の中でベントを手動で開けなければならないような、時間も空間も厳しい作業を従業員たちは率先して行った。 電力会社の社員はモラルが高い、という。普段から、台風や雷の日は晩酌もせずに家でずっと待機する。会社から連絡があれば、緊急に復旧作業に出なければならないからだ。子どもと出かけていようとも、天候があやしくなると家族が緊急の仕事を心配して「早く帰るよう」に連絡すると、中部電力労組出身の内田氏は誇らしく言った。 そのモラルを維持するために電力総連や福島第一・第二原発総本部は、事故収束に努める現場の声を拾い、東電の東京本部にあげてきた。 この間、衣食住の改善を徹底した。防護服着用での作業は汗ばむ環境。水を通してシャワーが浴びられるようにし、着替えを用意。洗浄して乾燥させる必要のある防護服の替えも調達した。食事は当初、乾パンだけという批判的報道に、内田氏は「放射線下での調理は内部被ばくの恐れがあり危険。その場で開封して食べることが自らの健康管理」だと話す。現在ではメニューを増やし、報道でも「震災直後よりはだいぶよくなった」という作業員の言葉が報告されている。 働くもののいのちと健康 働くものの健康と職場の安全を確保することは、労働組合の最優先課題である。はたして、電力総連はこれを徹底して会社に要求してきたのか――。 原発で作業するには5年間での累積放射線値の上限が決められている。「福島の状況は日々悪化することもある。放射線管理下、一日で5年間の被ばく放射線をあびてしまえば、むこう5年間の仕事ができなくなってしまう。それは大きな問題だ」と内田氏は答えた。 その回答は、人間のいのちや健康よりも、業務が続行されるかそうでないかに軸を置いているように聞こえたが、それは私の思い過ごしだろうか。 定年まであと5年だと、原発と避難所を行き来していた東電社員が、まずは年金が支給されることや会社の存続を心配し、自分の健康やいのちのことにはまったく触れなかったことを思い出した。 これまで、火力発電、太陽光発電と比較して、「原子力発電はコストパフォーマンスや安定性の面からも労働組合が自ら考え推進してきた」と内田氏は言うが、それには「『安全』が大前提。いかなる状況があっても放射性物質を郊外に出さないということが大原則だった」。 しかし「安全だといい続けてきたわれわれ労働組合が(この事故を)謙虚に受け止めてまず反省しなければならない」という内田氏の言葉は、その神話が崩れたことを意味する。これまでに3人の労働者が汚染された水に浸かって被ばくし、次に2人の女性労働者が3ヶ月間の上限値を超えた線量を浴びている。 電力総連は「労働組合として重く受け止めて、会社側には作業員が被ばくしないように申し入れている」ものの、事故が起き、作業員が被ばくして救急車で運ばれたという事実もあるところで、「われわれとしては常に完璧にされていると安心するのではなく、問題が潜在化するのではないかという認識をもって対応しなければならない」。 「労使協調」だが責任は会社 「労使協調」の理念で、会社と原発推進してきた電力総連は「これまで組合としてのチェック機能を果たしてこなかった」と認める一方、識者の知見を集めて検討したり分析するのは、労働組合ではなく会社の責任であるとした。 福島原発の放射性物質放出以後、国内・海外で反(脱)原発運動やそれを呼びかける声が広がっている。日本のエネルギー政策が問われている今、職場の安全と労働者のいのちと健康を守りぬけなかった電力総連として、代替エネルギーについて検討すべきではないかという問いに対し、内田氏は「今後のエネルギー政策については、ジャーナリストのみなさんや国会で十分な論議をされて、(太陽光や風力・火力発電などの)メリット・デメリットなどを考えていっていただければ」と回答。 福島に太陽光パネルを設置するにしても、コストや地域振興への貢献度、雇用の創出率なども含めて議論してもらいたいと、労組内での議論の可能性には触れなかった。 取材中、一度も彼の口からは原発を廃止すべきだという意見は発せられず「安全だといってきたが、実際、放射性物質が外に出て地域のみなさんに迷惑をかけている。これまでのように原発が重要だと主張する環境にない。現在は、福島の状況をいかに早期安定させるかが第一前提であり、全国の原発の津波対策を万全に期することが重要だ」と言うにとどまった。 放射性物質を拡散した主犯国であるにもかかわらず、日本政府が「原発廃止」の可能性を議論できない理由に、支持労働組合連合の主要組織とその企業が主張する「原発ありき」の意識がここにあった。 Created by staff01. Last modified on 2011-05-07 21:21:04 Copyright: Default |