報告 : 「完全デジタル化」と「アナログ放送停止」の延期を求める記者会見 | |||||||
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「地上デジタル放送」の開始まであと1年に迫った7月17日。東京都内で「完全デジタル化」と「アナログ放送停止」の延期を求める記者会見が開かれた。 東京・千代田区の「主婦会館プラザエフ」会議室に、テレビ局などメディア関係者が多数集まり、主催者が作成した提言などについて、質疑応答が交わされた。 発起人は、ジャーナリストの坂本衛氏、弁護士の清水英夫氏ら放送やメディア論の有識者4人。会見が始まると、立教大学准教授の砂川浩慶氏が「提言」を読みあげた。 ■恣意的な普及率調査 完全移行まで一年余りとなったが、総務省の調査をはじめとする各種データでの「地デジ対応設備」の普及率には、大きな誤差や水増しがあること。現状のまま進めば、来年の7月24日にテレビを見ることのできない家庭や事業所が、数百万世帯という規模で発生すること。それにより、情報格差の拡大どころか、台風や地震などの災害時の重要な連絡が遮断され、人々の生命と安全が大きく脅かされることなどを「提言」は指摘。地デジへの移行とアナログ放送停止の延期。計画の真しな見直しを求め、議論を広げることを呼びかけている。 坂本氏(写真)は、「今回の計画は本当に視聴者が望んだものなのか。デジタルは確かに便利だが、それに変えてくれと誰が頼んだのか」。「アナログ放送がこれほど普及している国は世界でもまれだ。これまで、走査線が少ないとか、横長画面にしろとか、音質が悪いなどの苦情がテレビ局に寄せられたことは一度もない」と切り出した。 砂川氏は、「ある日突然、国の政策でテレビが見られなくなる。視聴者には何も悪いことをしていない。こんなことが許されるのか。放送局内でもきちんと議論ができていない。何とかなるだろうというムードばかりが先行している。何がなんでもアナログ放送を止める、という必要はない」と語った。 清水氏は、「情報を得る権利、知る権利の問題である。視聴者は今まで通り『アナログテレビ』(以下単に「テレビ」という)を見る権利がある」と論じた。 ■問題だらけの移行と強要 この日配布された資料によれば、「地上デジタル受信機」の累計出荷台数は「7783万台」(10年6月末現在)と、来年7月までの目標に届く数字にはなっている。だが、これは地デジが受信できるすべての機器の単純な合計であり、かつ一世帯の複数購入も加算されている。 「地デジ対応テレビ」に出荷台数を絞り込めば、アナログテレビ1億3000万台の約半数7000万台前半と見込まれる。この数字は、現在普及している2台目以降のテレビが、家庭内から消えることを意味している。 総務省発表の「地デジ浸透度調査」(RDD電話調査)も、電話で事前に調査票郵送の可否を求めたり、働きに出ている時間の多い単身者や低所得世帯には、そもそもつながりにくい。このことから、調査対象じたいが偏り、世間の実態とは大きくかけ離れた結果が出されている。 また、集合住宅や山間部・辺地など、「共聴受信施設」の地デジ対応が大幅に遅れていることも問題だ。集合住宅の受信対策は、管理組合を通して工事を実施したり、あるいはアパートのある場所と大家が離れているなど、個人の意志では対応できないという事情がある。こうした状況を考えれば、とてもあと1年で準備が間に合うはずがない。 さらに低所得者向けに、現在のテレビに接続する「簡易チューナー」が配布されるというが、本体のテレビが壊れれば、結局は地デジ対応テレビを買うしかなくなる。無償配布ならば総務省の予算の、個人が買ったものなら代金の無駄づかいになる。すでにアナログ波が停波しているため、もし画面が映らなくなれば、チューナーが悪いのか、本体の故障かの判断すらできなくなる。したがってどちらのメーカーも苦情に応じず、修理にも二の足を踏む。 極めつけは、連日観光客でにぎわう建設中の「東京スカイツリー」(墨田区・写真)の問題だ。この世界一のタワーからデジタル波を送信する予定だが、来年の移行までにタワーの完成が間に合わないのだ。 タワーの開業は2012年の春で、フルパワーでの送信はその年の暮れとされている。現在のデジタル波は東京タワー送信だから、どの段階でアンテナの向きを変えるのか。個人世帯や事業所は、ここでも翻ろうされることになる。 ■来年度移行の撤回を 会見参加者からの質疑応答にも十分な時間が配分され、さまざまな意見が出された。ある大手紙記者は、現在のテレビ画面の上下にかかる黒帯「レターボックス」へのクレームがかなりあり、それにまず抗議すること。会見者の今後の動きをただした。 これに対し主催者は、「デジタル放送への移行じたいは否定しない。問題はそのやり方だ」と強調。今回作成した「提言」を、「要求書」のようなかたちで当事者に突きつけるのではなく、「当面は信頼できる周辺の人々から、延期への賛同者を募っていく」のだという。それで間に合うのか、効果があるのか。 「アナログ停波については、もっとメンタルな影響を訴えるべきだ」との意見があった。増え続ける独居高齢者などは、テレビだけで社会とつながっていることが少なくない。そんな人々からテレビを取り上げることが、何をもたらすのか。「この国は最後にはテレビすら見せてくれなかった」と恨まれるに違いない、という。大切な視点だ。 筆者はこれまで、アナログ放送の受信すらままならない、電波状況の悪い一戸建ての家に住んでいた。それでも口座引き落としでNHKの受信料は払い続けていた。 5年前にアパートに引っ越したことで、共同受信の設備にありついたが、今になっても近隣から、そして大家から「地デジ対応」の話はいっさいない。総務省の派手な、そして嫌がらせまがいの広報も空しく、圧倒的多数の市民が地デジには関心も興味も持っていない、ということだろう。 混迷する政治、景気の悪化、出口の見えない閉塞感覆う社会状況の中で、「地デジ放送」など、庶民にとって実はどうでもいい絵空事なのではないのか。ならばなおさら、拙速なアナログ停波は許されない。その影響、混乱、すなわちデメリットははかり知れない。 最低限の情報を得る権利が侵されようとしている。市民の側からの強力な働きかけが急務だ。(Y) ※この日は発起人の一人であるジャーナリストの原寿雄氏が欠席。坂本氏と砂川氏の二人が会見を進行した。 Created by staff01. Last modified on 2010-07-19 06:42:04 Copyright: Default |