●韓国ドキュメンタリー映画「外泊」
主婦はなぜ立ち上がったのか 韓国民主化の姿がここにある
キム・ミレ監督の韓国映画「外泊」が評判を呼んでいる。といってもこの映画、劇場公開されているわけではない。2009年山形国際ドキュメンタリー映画際に招待され、京都、大阪、東京などで自主上映されている。
ソウルの巨大マーケットの「ホームエバー」で500人の女性レジ係が売り場を占拠して510日も闘ったドキュメント。これが深刻ぶらない明るいタッチなので感動した。
レジのカウンターがずらり30〜40台も並び、その一台一台に女性たちが毛布を持ち込んで寝起きし、職場を死守する。彼女らは歌ったり踊ったりスクラムを組んだりと、店内は壮大な劇場と化している。
混乱の原因は、経営するイーランド・リテール社が07年7月に「非正規職保護法」が施行されるのを前に、非正規のレジ係を全員解雇し、外注化を図ろうとしたことだ。これに怒って女性たちは立ち上がったのだ。彼女らは既婚者ばかりで労働組合運動の経験がない。家族を置いて「外泊」したこともない。シュプレヒコール一つできないので、練習して闘いのイロハを学んでいく。「私たちの闘いで社会が変わったら素晴らしいけど」と夢を語ったりもする。
しかし、現実は大変なのだ。「皿洗いや掃除はもうまっぴらだ」と夫が乗り込んできたり、借金や離婚の話が出たり、脱落者が出てきたり……。男尊女卑の考え方が根深い社会では、家族や因習とも闘わなくてはならない。
この種の韓国映画に、男性工員たちから糞尿を投げつけられながらも闘った紡織女工を描いた「私たちは風の中に立つ」(06年)がある。韓国の民主化は、実はこういった底辺の女性たちが声を上げたことから始まったのだ。
ラスト、闘い終わって一人鏡台に向かい、日焼けでシミの増えた顔を化粧するシーンに胸が熱くなった。女性の監督ならではの豊かな感性が息づいている。 (木下昌明/「サンデー毎日」 2010年1月17日号)
*映画「外泊」の上映・貸し出しの問い合わせは連連影展FAV=weabakfav@yahoo.co.jp
------追記------------------------------------------
この短評では書かなかったが一言つけ加えたい。
この映画のラストは会社が敗北し、別会社が買収し、組合の指導部12人を除いて全員の再雇用を認めた。これは労働者にとって大きな勝利である。
しかし、映画は指導部が再雇用されなかった組合員たちの悲しみに焦点をあてるーそのことは同じようにたたかった者として当然の悲しみであるがー映画としては逆に全体が敗北したのではないかと誤解を与えかねない。できれば字幕でいいから、たたかって勝利したという一言がほしい、と思った。
また、この映画は劇場公開が決まっていない。特にこの映画、日常の職場の中で「おばさん」と蔑視されていた女性たちが、一団となってたたかいぬいた貴重な記録である。これを広めるために劇場公開できるようみんなで協力できないだろうか。
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staff01.
Last modified on 2010-01-14 17:03:37
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