●映画「子供の情景」
私たちは一体子供たちの何を知ったつもりでいるのだろう
イラン映画はふしぎだ。国の枠を越えてアフガン難民やトルコ移民を主人公にすえた
映画が多い。それでいて国民の多くが見ている。モフセン・アフマルバフ監督の「サイ
クリスト」や「カンダハール」はその典型例といっていい。
なかでも「カンダハール」(2001年)は、9・11事件の折に公開されて世界の注
目を集めたが、飛行機から爆弾ならぬ無数の落下傘に吊した義足が舞い下り、それを地
雷で足を失った男たちが追いかけるシーンは鮮烈だった。
彼にはサミラとハナの二人の娘がいて、共に映画作りに励む。彼女たちも父に倣って
アフガンの貧しい人々に光を当てている。サミラの作品では世界の11人の映画人と共作
した「セプテンバー11」のワンシーンが忘れがたい。アフガン難民の村で先生が生徒に
、倒壊したツインタワーを想像させるためにレンガ工場の煙突を見せにいく。砂漠には
これ以上高いものがないからだ。
今度公開の「子供の情景」は19歳のハナの作品で、バーミヤンの仏像がある中央高地
が舞台。岩山の洞窟で暮らす少女が主人公だ。仏像は偶像崇拝だとしてタリバンによっ
て破壊されたが、ハナの父はこの問題を追究した本を出している。映画の原題は「ブッ
ダは恥辱のあまり崩れ落ちた」という本の表題から取った。
少女は、隣に住む男の子が勉強している姿を見て、自分も学校に行きたいと卵を売っ
てノートを買い、男の子についていく。が、先生に女はだめだと追い出され、女子校を
探しにいく。その途中で戦争ごっこの子供たちに捕まってしまう。彼らは憎悪と人殺し
の遊びしか知らないのだ……。
ハナは、貧困と無知のなかに置き去りにされた子供の「情景」を寓話風に描きながら
、無関心な世界の人々に、これでいいのかと問うている。荒けずりな表現ながら、少女
と爆破される仏像とを重ねたラストが胸を打つ。(木下昌明/「サンデー毎日」09年4月26日号)
*映画「子供の情景」は4月18日から東京・神田神保町の岩波ホールほか、全国順次公開
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Last modified on 2009-04-23 17:07:41
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